第6章 24H Nürburgring 40
「……」
龍一は集中し、X-Bowのテールを見据える。仕掛けず尾行する。
ピットアウトラップながら、時間を計ってみれば、2台ともそれなりのタイムだった。
「ってゆーか、来てますね」
優佳はぽそっとつぶやく。AIカーの2台が徐々に差を縮めているのだ。もしかしたら、4台でのバトルになるかもしれなかった。
夜香楠が実況する。
「1位レッドブレイドのKTM X-Bow GT2、Honey Bear選手。1位独走です。しかしながら、少し後ろに周遅れながらウィングタイガーのウラカンが着けています」
「Dragon選手はついてゆくだけなのでしょうか、それとも、折を見て仕掛けるのでしょうか? その動向に注目したいところですが。周回遅れのマシンが前の上位のマシンに仕掛けること自体は、違反ではありません。ただし、抜きざまに接触した場合、重いペナルティーが課せられます」
と風画流が話を継いで、さらに夜香楠がつなげる。
「ただ選手の心理としては、周回遅れよりも、同一周回でのゴールの方が望ましいでしょう。Dragon選手、ここで意地を見せるのかどうか。僕も注目したいと思います」
大方の予想通り、ウィングタイガーのウラカンはレッドブレイドのX-Bowについてゆくだけだ。ヤーナも、チームメイトのアンディに及ばないものの、それなりのペースで走り続けている。それに貼り付いてゆくだけでも、たいしたものだった。
時間は刻々と過ぎてゆく。
「どうしたDragon? ついてくるのがやっと? なわけないよね」
ヤーナはちらりとミラーを覗いた。ウラカンのノーズが映っている。
しょっぱなから仕掛けず、しばらくはストーキングに徹するというのは、ヤーナも予想していた。だからといって容赦はしない。本気で引き離すつもりで走っていたが。
なかなかどうして、龍一もよくついてくる。
「来てます」
龍一はソキョンにそう伝えた。AIカーの2台、ダッヂ・ヴァイパーGTS-Rとベントレー・コンチネンタルだ。
ミラーの中で徐々に姿がくっきりしてくるのがわかった。
「了解、後ろが手強い場合は、前よりも後ろを優先して防いで」
「了解しました」
変な話、ヤーナを抜かない方がレースとしては楽なのだ。だが、これ以上順位が下がるのは防がなければいけなかった。
時間は刻々と進んでゆく。
午後1時半を過ぎ、45分を過ぎ……。
レースの展開は、小康状態だった。
「だろうな、まだ1時間と10分残ってるしな」
優はつぶやく。
仕掛けるには早い。
アンディは問う。
「来るとしたら?」
「残り2周くらいか?」
「オレもそう思う」
レッドブレイドはそんなやりとりをしつつ、一方のウィングタイガーは。
「まあでも、龍一も頑張ったよ。もういいよ、って言ってやりたいけど」




