第6章 24H Nürburgring 38
ウィングタイガーの控え室の雰囲気はますますよくなっていった。
時間は進む。
夜香楠が実況する。
「おや、これは……!」
「ウィングタイガーのViolet Girl選手、トップを走るレッドブレイドのYouHee選手に迫っています」
風画流が話を継いだ。
「ウィングタイガーのViolet Girl選手は、自身の出したファーステストラップの自己更新こそなりませんが、それと伍するハイペースのタイムで走り続けています」
「もしレッドブレイドのX-Bowに追いつき、追い抜いても、同一周回になるだけで、順位の変動はありませんが。それだけに、Dragon選手のミスはもったいなかったですね」
と夜香楠。
「ああ、言われちゃってら」
龍一は忸怩たる気持ちだった。
そして、もうすぐ午後1時。終盤ロングストレート手前のコーナー。ウィングタイガーのウラカンは、ついにレッドブレイドのX-Bowに追いついた。
「くそ、結局来られたか!」
雄平も懸命に走ったが、力及ばず。ロングストレートに入り、フルスロットル。カースティもフルスロットル。2台のマシンは咆哮を放ち、空を揺らす。
「ここは無理しないでおこう、っと」
勢いに任せて抜こうかと思ったが。こっちは周回遅れの身、それを思えば、抜くにしても気を配らないといけない。とはいえ、ピットインをしなければいけない。
ウィングタイガーのシムリグのそばには龍一が控えている。同じように、レッドブレイドのシムリグのそばにはヤーナが控えている。
ビルシュタインブリッジを抜け、丘を駆け下り、下り切ってまた上って、最終コーナーを抜け。
2台同時ピットイン。
おお、と2階中ホールの観客たちも歓声をあげた。ギャラリーたちの注目は、ウィングタイガーがレッドブレイドを抜いて同一周回になるかどうかに移った。
夜香楠が実況する。
「1位レッドブレイドのX-Bowと、丁度1周遅れの8位ウィングタイガーのウラカンが同時にピットインです! これをトップ争いで見てみたかった!」
双方ピット作業の間にシート調整をし、選手交代した。
入れ替わりの束の間、カースティは龍一に軽くハグした。龍一も、うんと頷いた。
「ちきしょう、後は頼んだぞ!」
「任せときな!」
雄平とヤーナも短いやり取りをして交代した。
先に動いたのは、レッドブレイドのX-Bow。直後にウィングタイガーのウラカン。
2台同時にコースインだ。
風画流が実況する。
「さあ、時間も午後1時を回り。よほどのことがない限りは、最後の選手交代になるはずです。1位レッドブレイドはHoney Bear選手に交代。2位との差も大きく開き、独走状態、最後の2時間、どのような走りを見せるのでしょうか!」




