第6章 24H Nürburgring 36
「1周で3秒も縮めるなんて、すごいもんだな」
アンディは感心しきりに言う。それも、黒人の女性選手が。
母国ケニアはおろか、アフリカ大陸出身者初のプロeスポーツ選手も女性選手だった。今まで女性は不当に抑圧されていた、いや、まだ過去形で語れるほどの展開はなく、今もそれは続いている。それを跳ね返し、どんどん飛躍してほしいと、アンディは思っていた。
「ってゆーか……」
アイリーンが画面を指さす。
「後ろも迫ってきてるんじゃない?」
言われてみれば、8位と9位のAIカーもいい感じで走っている。最終盤、龍一に代わるころには、前を追いつつ後ろも抑えないといけない展開になるのではないかという危機感も芽生えた。
「カースティに伍する走りをするなんて、そんなに速かったのか」
フィチも危機感をにじませる。AIカーに追いつかれてしまえば、前を追うどころではなくなるかもしれない。もしかしたら、猫をかぶっていて、終盤にペースを上げるという感じなのだろうか。
「あー、もう、ここに来て」
ソキョンは龍一を見据える。
「あんたの時に来るかもしれないわ。やれそう?」
「やります」
即答した。龍一も腹をくくっていた。自身に関しては、もう結果は出ている。しかしこのレースは、最後まで頑張ろう、と。
ソキョンもその意気を買った。
「じゃあ頼んだわよ」
「はい」
選手交代してからもうすぐで1時間経とうとしていた。X-Bowとウラカンのコース上の差は30秒ほどとなっていた。
まずX-Bowがピットイン。ピット作業を終えてコースイン。ややあってウラカンがピットイン、ピット作業を終えてコースイン。
その間に、時間は正午12時を回っていた。
ゴールまであと3時間!
スタートしてから21時間経った。それでも今まで様々なことがあった。リタイヤしたチームの面々はビルを去り、宿泊先でレースを見守る。
「……」
雄平は淡々と走る。ずっとハイペースで走り続けるのは、やはり不可能だった。
ウラカンがいいペースで迫ってきていることは知らされないままだ。大事なことは、1位であることだから。
カースティは、怒涛のハイペース走行を持続させていた。
ピットアウトしてから、メインストレートに戻ってきて、時間の差を計ってみれば、3秒縮めていた。
繰り返すが。バックマーカーもひょひょいのひょいだ。
「1時間で18秒。このままいけば、計36秒縮められて。交代のころには14秒差か」
と優は言う。
「なら引き離してやるわ」
ヤーナは息巻く。




