第6章 24H Nürburgring 35
「もしかしたら、X-Bowをとらえて、さらにパスして同一周回になるかもしれないぞ。それくらい、Violet Girlの走りはすごい」
「あ、そういうこと!」
ヤーナもマジな顔つきになった。俊哉は唖然とした面持ちになった。
「転んでもただでは起きぬ、か。見せてくれるじゃねえか」
たとえ抜かれたところで、同一周回になるだけで、問題はないといえばないが……。プロとしてのメンツの問題だった。
皆画面をじっと見入った。
ピットアウトの周回を終え、雄平のX-Bowがメインストレートを駆け抜けてゆく。そこから時間を計った。
しばらくしてViolet Girlのウラカン。
「47秒!」
ウィングタイガーの面々は歓喜の声を挙げる。レッドブレイドは何とも言えない顔をする。
「Dragonのミスに助けられたなあ」
優は悔しそうに言う。俊哉は顔を青ざめさせる。そのミスがなかったら、どうなっていたことやら。
さらに次の周回を終え、メインストレート。X-Bowが駆け抜け、それからウラカン。
「43秒!」
おおー、っとさらにウィングタイガーの歓声。2周で7秒縮めたのだ。これはとんでもないことだ。
風画流が実況する。
「おおーっと、ウィングタイガーのViolet Girl選手、ファーステストラップです! King sword選手の出したタイムを2秒半上回っています! ここに来てとんでもない速さです!」
「Violet Girlはサイボーグかアンドロイドか!?」
優は思わずそんなことを漏らした。
さて、どうする? メンツか、順位か。
(順位だ)
優は腹をくくった。ヤーナを見据える。
「雄平は大丈夫だろうが、来るとしたらお前の時だな。追いつかれても、塞がず行かせろ。さすがに順位はひっくり返らんだろうからな」
「……」
ヤーナは即答をせず、優を見返していた。
「おい」
「わかった、わかった。そうするよ」
「頼むぞ」
ヤーナはしぶしぶうんと頷いた。優はさすがに苦笑も出来ず、眉をひそめた。
(こりゃだめだろうな)
無理もないと言えば無理もない。ヤーナとDragonは不思議な縁のある、因縁のライバルだ。
「雄平、遅いぞ。もっとペースを上げろ」
「え、遅いっすか?」
「気を引き締めろってことだ。1位に浮かれるなよ」
本当のことは言わず、そう言って優は雄平に発破をかけた。
「了解!」
下手な口答えはせず、雄平は気を引き締めなおし、攻める。
だが、それでも……。
交代してから4周目のメインストレート。X-Bowがスタートラインを跨いでから、ウラカンがスタートラインに来るまで……。
「40秒!」
スマホのストップウォッチ機能で時間差を図り、ウィングタイガーの面々は喜色を浮かべる。控え室の雰囲気もよくなる。




