第6章 24H Nürburgring 33
「Dragonの場合はプロデビュー戦でいきなり勝っちゃうのすごすぎるんだけどね」
「うん、まあ、自分でもよく勝てたと思うよ」
とはいえ、あれから苦戦気味だった。その挙句の果てに……、である。
(龍一は優しすぎるかな)
フィチは声に出さず、心の中でつぶやくにとどめた。才能はあるが、根本的な性格がそれをスポイルしているのは否めなかった。
「まあ、この調子で差を縮めてくれたら言うことないわ」
ソキョンは笑顔で、脳裏には理想的な予想を思いめぐらせていた。
時間は刻々と進み。午前10時近くになる。
そしてそのソキョンの予想の通り、X-Bowとウラカンのコース上の差は1分半にまで縮まっていった。アイリーンが飛ばしているというより、俊哉の調子が悪かった。
(おいおい、勘弁してくれよ)
優はひたすらの苦笑。トップアマのウデを見込んでのオファーだったが、経験のためなのかどうか。トップに立つプレッシャーに圧されてしまっていた。
ミスをするまいと用心するほどペースは落ち、それに焦ってかえってミスをするという、最悪なパターンもありえた。
「こらあ俊哉! しっかりしろ!」
ヤーナだった。思い余って、喝を入れる。もう見てらんない、と。
「わかってるよ!」
「わかってない! わかってんなら、しっかりしろ! ペースを上げろ!」
優や他のクルーは何も言わず、成り行きを見守った。
「あんたもいい大人でしょ! 悔しけりゃ、仕事を責任もってやれ!」
「言われなくても!」
言われて俊哉もムカついたようで。そのムカつきを走りにぶつける。
が、ことは都合よく進まないものだった。俊哉は改めて気合を入れなおしたものの……。
最終コーナーを抜け、メインストレート。アクセル全開。そして第1コーナー。その第1コーナーで、あろうことか、大きく膨らんでしまう!
幸いすぐに戻れたものの、大きなロスをしてしまった。
「ヤーナ……」
「え、あー、ごめーん」
ヤーナはてへぺろと笑ってごまかす。喝入れを気付け薬として、俊哉を奮発させようとしたが。かえって仇になった。
2位との差は3分以上あり、その余裕のおかげで順位が下がるのは避けられたが。
「まあ、落ち着いて走ってくれ。リタイヤだけは避けてくれな」
と、優の方から無難に言うしかなかった。
「すみません……」
俊哉も無理せず、無難な走りに徹した。
「あーっと、1位レッドブレイドのToshiya選手、大きく膨らんでしまう! しかしすぐに復帰、事なきを得ました!」
と夜香楠が実況する。これにウィングタイガーの面々が歓喜したのは言うまでもない。
コース上の1分半の差は、1分とちょっととなった。
その周回を終え、ピットインし。ピット作業を終えて、コースイン。




