第6章 24H Nürburgring 32
「ふう、一瞬びびったぜ」
優をはじめレッドブレイドのクルー一同、苦笑。もし巻き込まれていたら、順位を下げかねなかったし、最悪リタイアだ。ここまで来てそれは許されなかった。
これにてコース上のX-Bowとウラカンのコース上の差は2分以内となった。
その周回を終えまずX-Bowがピットイン。
「お疲れさん!」
「ありがとう」
と短く言葉を交わし、俊哉と選手交代。ピット作業を終えて、コースイン。しばらくしてウラカンがピットイン。
「頼みます!」
「OK、まかせて!」
と短めのやり取りをして、アイリーンに選手交代。ピット作業を終えてコースインする。
これにてフィチとアンディの走りは終わった。あとはチームメイトと運に託すだけだ。
時間は午前9時を回った。リアルでもゲーム内でも太陽は昇ってゆく。
控室に戻ったアンディは拍手で迎えられた。そのプレイヤーネームにふさわしい堂々の走り。呼んだ甲斐があったものだったし、彼も自分の仕事をよく果たした。
フィチも同じように拍手で迎えられた。ウィングタイガーのバンディエラであり、それにふさわしい走りを見せた。
(トップか……)
俊哉は緊張を禁じえなかった。トップアマとして実業団の試合で実績を積んだとはいえ、こんなビッグイベントで、しかもトップというのは、やはりプレッシャーを禁じえなかった。
レッドブレイドからオファーがあった時は、オレもまんざらじゃないなと素直に喜んだのだが。その重みを今になって、やっと知った、といったところだった。
「ちょっと、身体の動き硬いんじゃないすかね……」
雄平が心配そうに言い、優も苦笑しつつ頷く。シムリグには小型カメラが据え付けられていて、選手の様子も映し出される。控え室からも見られるのは言うまでもない。
「顔つきも悪いわ」
ヤーナはらしく余計な一言。そこまで言わなくても、アンディも気になっている。実際真剣ではあるが、険しすぎた。
「うーん、最後の番になってプレッシャーを感じたか」
優は苦笑しきり。ステディではあるが、走りに勢いがない。仕方がねえなと、
「落ち着いて。好きな歌でも思い浮かべながら、ゆとりをもって走ってくれ」
と伝えた。
「わかりました」
言われてか、やや余裕が出てきたっぽかった。
一方のアイリーンは集中しまくって、飛ばし気味に走った。
「キャリアの差ですね」
優佳がぽそっとつぶやく。タブレットを手にして、チームのSNSにレース状況を書き込みながら。
「Toshiyaさんも速い人なんですけどね」
「やっぱりプロでの経験が少ないと、こういうところで不利になるのね」
龍一の言葉に応えるソキョンはうきうきし気味にそう言った。
カースティは龍一の方に向いて、笑顔で言う。




