第6章 24H Nürburgring 30
「まあ完走が大前提だけど。周回遅れからは脱出したいのよね。みんなもそうでしょ!」
「それですか」
「当たり前じゃん! 完走しても周回遅れでチェッカーなんて、やっぱり悔しいじゃない」
「そうですね、さきほどAVP Gaming様とM&Dモータースのマ社長から、リスクがあっても、もっと攻めていいのではと、メールをいただきまして」
と、優佳が事情を話し。ソキョンが自分のスマホでそのメールを見せる。韓国語なのでアイリーンとカースティにはわからなかったが……。翻訳アプリの機能でカメラ越しに見れば、確かにそんなことが書かれてあった。
ちなみにAVP Gamingは台湾の会社だが、やりとりは韓国支社とだ。
「それなら、やりましょう。私たち、もっと自分を信じてもいいのよね」
言ったのはアイリーンだった。カースティは龍一を見つめた。
「そうですね、臆病な気持ちに負けたらだめなんですよね」
「Battle against myself!」(自分との戦い!)
カースティは笑顔をぱっと輝かせて言った。夜明けとともにつぼみが花開いたような、いい雰囲気が控え室に流れた。
ソキョンはフィチにその旨伝える。
「了解です!」
「ああ、ところでさ。後ろどう? タイム差縮まってんだけど」
ソキョンの言う通り、パスしたベントレー・コンチネンタルとダッヂ・ヴァイパーGTS-RのAIカーが、ペースを上げてきているのだ。
「丁度いいところです。逃げ切ってやりますよ」
「頼んだよ!」
改めて1位レッドブレイドのKTM X-Bow GT2と、ウラカンの位置を確かめる。コース上では、2分の差だ。この2分を、ゴールの15時までの間に逆転するのだ。
ニュルブルクリンクのような長いサーキットでは2分の差は短めではあるが、快調なレッドブレイドだ。いけそうでいけない、いけなそうでいけそうな、そんな感じで。いけそうなことに賭けた。
午前7時に龍一からフィチ、ヤーナからアンディへと交代し。
時刻は午前8時に差し掛かっていた。そのタイミングでまずX-Bowがピットインしタイヤ交換と燃料補給をしてピットアウト。およそ2分遅れでウラカンがピットインし、作業を終えてコースイン。
「おまけがつきそうです!」
「ならおまけをオプションにしてX-Bowを追うんだよ!」
「了解!」
オプションとはシューティングゲームで自機について援護射撃を行いゲームを有利に進める子機のような存在だ。それに例えて洒落たのだ。
それだけAIカーの2台は良いペースで走っていた。フィチも力走しているが、どこまで持つか。
「フィチがそんなことを言うなんて、相当だな」
「そうね、下手したら順位下げちゃうかも」
カースティと龍一はそんな言葉を交わす。




