第6章 24H Nürburgring 28
カースティも無理をせず安全運転に徹した。
……時刻は刻々と進む。
「龍一、腐らずに走るんだよ!」
ソキョンは龍一の肩を強く叩いた。
「はい」
と龍一もよい返事をした。フィチとアイリーンに、優佳、クルーたちも笑顔で龍一を見送った。
1位は依然としてレッドブレイドのKTM X-Bow GT2。ウィングタイガーが下がってから、悠然とニュルブルクリンクを駆け抜ける。
かといって余裕綽々ではない。ワンミス命とりはレッドブレイドも同じ。くれぐれもクラッシュには気を付けるようにと、強く言い聞かせた。
「いいか、リタイヤなんかしてみろ、ただじゃおかねえぞ」
諧謔なく、鋭い目で、優はそう言った。
チームは油断を排して気を引き締めたものだった。そこから自然に、
「まだ2位!」
と自分に言い聞かせるようになっていった。夜の間に、アンディに俊哉、雄平はステディながらも一定の速めのペースを維持し。2位との差を縮めさせなかった。
控え室から会場へ向かう途上、ヤーナは龍一に声を掛けた。
「大変だったねえ」
「ええ、まあ……」
遠慮がないヤーナに龍一は苦笑。
「あんたらと最後まで張り合いたかったけどね」
「そうっすね。オレも、悔しいです」
「ならそれを走りにぶつけな!」
ヤーナは龍一の背を強く叩いた。そのカラッとした笑顔。本当に遠慮がない。しかしそのおかげで、龍一の気持ちが軽くなって。
「わかってますよ」
と、笑顔で頷いた。
時間が来てウラカンがピットインし、タイヤ交換に燃料補給。そして選手も交代する。
「頑張って!」
「うん、頑張るよ」
互いに笑顔を交わし、龍一はシムリグとリンクし。マシンを走らせた。
時刻は午前5時。
順位は変動せず。前のマシンたちはリタイヤせず、よく走っていた。8位のダッヂ・ヴァイパーGTS-RだけがAIカーで。他はプレイヤーカーだった。
無理しない走りをしたアイリーンとカースティだったが、ただ無理をしないだけではない。行けると確信したときは攻めた走りをし。ヴァイパーとの差を徐々にだが縮めていったのだ。
ソキョンはそんな龍一の走りを見守った。
「……」
(いくか)
ヴァイパーのテールが点のように見える。視界にとらえている。
あの失敗を教訓にしつつ、ヴァイパーを追うことにした。自分の時間帯でパスできなくても、次のフィチに繋げられるように。
ソキョンは何も言わなかった。龍一のやりたいようにやらせた。よもや1度ならず2度までも、ということはあるまい。
そしてその通り、龍一はヴァイパーを追いつつ無理をせず。徐々に差を縮め、後ろにぴったり貼りついた状態でフィチと交代した。
時間は午前7時を回った。




