第6章 24H Nürburgring 26
フィチがそばで待機していたが、気付くのが遅かったほど龍一の集中力は乱れていた。
「すまない」
「いいから、休んで」
龍一は力なく会場を後にする。フィチはシムリグにスタンバイする。幸いエンジンやサスペンション、フレームにダメージはない。が、右のミラーを新しく取り着けるのに時間がかかった。
それからタイヤ交換、ピットアウト。
トップとは1週以上遅れてしまった。順位も大きく落とした。
龍一はとぼとぼと控え室に戻ると、いきなりハグされた。カースティだった。何も言わず、頷いて、離れた。
「すみません……」
龍一は力なく詫びた。
「なってしまったものは仕方ないわ。あとは、完走を目指しましょう」
ソキョンはそう言うだけだった。
「すみません、休ませてもらいます」
龍一はベッドに横たわり、目を閉じた。これが夢であったなら。しかしリアルなのだ。ヴァーチャル空間でのクラッシュで、リアルの人生が一変するとは。これが、eスポーツのプロとして生きるということだった。
それから、深い眠りについた。誰も咎めなかった。
皮肉なことに、龍一からフィチに交代してから雨はやんでゆき、雲が流れて星空が見えるようになっていった。同時に暗い夜空に花火が打ち上げられた。
それでも路面はウェットだし。まだ雨の降っている区間もある。それだけニュルブルクリンクは広いのだ。
雨の止んだ区間でも、夜の雨でゲーム内の気温や路面温度も下がり、すぐには乾かない。なので慌ててタイヤを交換する必要はなかった。
クラッシュしてからピットに戻るまで、さらにピット作業で大幅にタイムロスをしてしまい。順位も下げた。
ウィングタイガーの順位は10位まで下がっていた。上の順位のチームには、スタート時に出遅れたものの、慌てず騒がず落ち着いて、もとい忍耐の走りをし、上位チームのアクシデントで棚ぼ他式に順位を上げてきていたのもあった。
耐久というだけあって、いかに耐え忍べるかも、レースの肝となる。
「奇妙なことになったな」
9位と11位はAIカーだ。11位とは幸いタイムが開いているが。9位との差は小さい。点のようにヘッドライトが見える。
9位のはベントレー・コンチネンタルだった。
少しでも順位を上げてゆきたいが、さて、どう攻めるか。雨雲もほぼ去って、コースのほとんどの区間で雨はやんだ。路面はウェットだが、ドライへと変わりゆくタイミングは区間によってまちまちなので、やたらと飛ばすことは出来なかった。
「しかけるのは完全ドライになってからにします」
「了解、その辺の判断は任せるわ」
フィチは無理をせず、路面状況が落ち着くのを待つことにした。ここで無理をして自分もクラッシュをしてしまっては元も子もない。




