第6章 24H Nürburgring 25
「Spiral Kとまたバトルをしたかったが……」
アンディも小さくこぼす。
「残念だけと、契約満了ね……」
ソキョンは小さくこぼす。自らのミスで順位を落とす事態になってしまっては、契約を更新することは出来ない。
ここに、龍一とチームウィングタイガーの関係は、終わりを告げた。が、レースはまだ終わってはいない。
「ほら」
とカースティにヘッドセットを差し出す。
「私がしゃべると怒鳴りつけちゃうからね。あなたが励ましてあげて」
「うん……」
カースティがヘッドセットを受け取ろうとすると、フィチはそれを止めた。
「だめです。龍一もプロ。そんな慰めがなくても、自分の力で、責任でピットに戻らないといけません」
「あんたも意外に鬼ね」
「そりゃあ、一応でもプロですから」
かえってソキョンが苦笑した。
アイリーンは言葉もなかった。カースティも見守るしかなかった。
ウラカンはとぼとぼ、のろのろとピットを目指す。雨に打たれ、霧に包まれながら。
龍一は忸怩たる思いでいっぱいで。五里霧中の気持ちだった。
もうチームにいられないのはわかった。しかしピットへ戻るのに必死で、今までの来し方を思い出すゆとりはなかった。
思い通りに走らぬマシンを操作し、ピットを目指すことしかなかった。
そんなウラカンを容赦なく追い抜いてゆくマシンたち。隻眼となったヘッドライトが白い霧と水しぶきを映し出す。
今までいた世界から異世界に吹っ飛ばされたような気持だった。
「龍一、フィチと交代するよ」
「了解」
ようやく終盤のロングストレートまでいたって、交代を告げられた。
ロングストレートでも、どれだけ抜かれたかわからない。
もどかしさが募るが、どうしようもなかった。
アクセル全開で走っても長く感じるストレート。そうでなければ余計に長く感じるのを禁じえなかった。
永遠に続くかと思われたストレートも、ようやくビルシュタインブリッジにいたり、丘を下る。よく出来たもので、ゲームでも引力の恩恵を感じた。
「ありゃあ」
ヤーナだった。丘を下るウラカンを追い抜いてゆく。これでトップから1週遅れとなった。
「こんなことになっちゃうなんてねえ……」
と言いつつも、ミラーは見ない。レースなのだ、不必要にミラーを覗かない。
ウラカンはようやく下り坂を下り切り、上り坂を上り始めた。今度は引力が文字通りに引っ張る。速度も鈍る。
パンクしたタイヤで走るのがこんなにも大変だとは。経験がないわけではないが。この大一番でのやらかしは、やはり痛かった。
精神的なダメージも大きいが、心の痛みをこらえてマシンを進めるしかなかった。
やっとのことで上り坂を上り切り、メインストレートにたどり着き。ピットインする。




