第6章 24H Nürburgring 22
「落ち着け! ペナルティーを食らったら元も子もないだろう」
クルーはそういさめるが。選手は憮然としている。
そんなことがある一方で、会場では緊張感が張り詰めたレースが繰り広げられていた。選手たちはシムリグとリンクし、必死の走りをする。
稲光が夜闇を裂いて、雷鳴がマシンエキゾーストとともに空を揺らす。
ヘッドライトや白い霧を照らす。
外灯の灯が雨粒と霧をほのかに照らし、幽玄な雰囲気も醸し出す。しかし選手にそれを味わうゆとりはなく。皆集中してヘッドライトの照らす白い霧の向こうへと、ひた走っていた。
午後9時を過ぎて、午後10時へと、時刻が迫りつつあり。
2階中ホールの観客たちもさすがにまばらで、ビルを後にし、自宅やホテルで休みながらスマホやタブレットなどで観戦する者が多かった。椅子に座ったまま寝入る者もあったが、スタッフが声を掛け、帰宅を促したりしていた。無理をして体調を崩されても、主催側では責任を持てないからだ。
1階レストランは閉店している。レストランは午後8時閉店の、通常時間での営業だった。軽い菓子や、眠気覚ましのコーヒーやエナジードリンクはビル内の自動販売機にもあるので、胃袋を満たしたい場合はそれを利用した。
剛の者はいずこにもいるもので。目を見開いて画面を見入る者は確かにいた。いわゆるガチガチのガチ勢というものだった。
1位と2位は変わらず。しかし差は縮まってきていた。
「なかなかしぶといねえ」
ヤーナはつぶやく。ウラカンがメインストレートに入り、その真ん中ほどまで来た時に、X-Bowがメインストレートに入る、という具合だった。
ヤーナとしては1時間で後ろに貼り付くつもりつもりだったが、なかなかどうして、龍一も粘る。
「詰められてるよ! もっとペース上げて!」
「了解!」
ソキョンは発破をかける。チームに残留したいなら、結果で示せ。と、容赦ない。龍一もその期待に応えようと、必死の走りを見せるが。
「チームレッドブレイドのHoney Bera選手、なかなかの猛追撃を見せ、差を縮めています! Dragon選手は逃げ切れるのでしょうか?」
このペースでいけば、選手交代のころには差はなくなっていそうだが。さて……。
雷は鳴きやみ、雨脚も落ち着いた。しかし相変わらず霧は濃くたちこめ、サーキットを覆い。選手の目をくらます。これがなかなかに神経を使わせられる。
龍一が走り出してから、プレイヤーカー1台、AIカー2台がコースアウト、クラッシュでターミナルダメージを負い、リタイヤを余儀なくされた。




