第6章 24H Nürburgring 17
他にも数人、これに気付いた。
「雨が降るぞ!」
まだ時間ではないが、各チームピットインの指示を出す。カースティはコース終盤に差し掛かったところだ。
リアルレースなら天気予報で雨雲の動きを見られるのだが。このゲームでは天気予報はなかった。ゲームなので、リアルのような、天候の変動による危険性はない分、予報はなしで空の様子で察するしかないというものだった。
カースティのウラカンは、ロングストレートを駆け抜け、ビルシュタインブリッジの丘を下り、上り坂を駆け上がり、最終コーナーを抜け。ピットイン。ゲーム内でピットクルーが手際よくタイヤをレインタイヤに交換してゆき。
ピットアウト。
そのタイミングで雄平のX-Bowがピットインし。タイヤ交換を終え、ピットアウト。というタイミングで、雨が降り出した。
「うおー、どんぴしゃ」
タイミングの良さに自分でも驚く雄平だった。
「ああ、早く気付いてよかった」
カースティもひとまず安堵だ。
雨粒が視界をさえぎる。夜である。夜の雨ほど、いやなものはない。視界が暗いうえに雨粒がウィンドウにたたきつけられる。視界設定によってはディスプレイに。
コックピット内視点にしていると、ワイパーも動かさないといけない。
ということで、ただでさえ悪い視界がより悪くなる。フラストレーションも禁じ得ない。
雨用のウェットタイヤでも万能ではなく、油断をすると簡単にスピンしてしまう。雨の中ドライタイヤなど言語道断である。が、ピットインをする前に雨にたたられたチームは悲惨そのものだった。
視界が悪くなるうえに、全然グリップが効かず。スローダウンを強いられるが。スピンを余儀なくされるマシンも見受けられた。
そのうえ、後続車にぶつけられたりもする。
最悪なのは、それによりターミナルダメージを受け、リタイヤまで余儀なくされる、バッドラックに踊らされる不運な選手もいた。
夜香楠が実況する。
「雨が降ってきました。この雨でそれぞれの幸不幸が決まります」
「雨に足元をすくわれるマシンも見受けられます。このランダムの試練をどれだけのチーム、選手は切り抜けられるでしょうか」
と風画流が継ぐ。
雨脚はかなり強い。さらに、ぴかっと空が青く光り。雷鳴が轟く。雷雨だった。
「テンペストね」
と、カースティはつぶやく。テンペストとはシェイクスピア戯曲のタイトルにもあるが、嵐の意味だ。
そのつぶやきが控え室のクルーにも聞こえて、互いに笑い頷き合う。




