第6章 24H Nürburgring 8
「きたか」
アンディは目前のバックマーカーを見据え、手際よくパスし。フィチもそれに続く。3周目に入ったあたりからバックマーカーが出始めてきた。最初の1台を抜いてから、クリアな空間などほぼなく、数珠繋ぎのバックマーカーを、右に左にスラロームしながらかわしてゆく。
「動くバイロンのご登場だ」
と優は冗談を飛ばし、クルーは心の中であるあるギャグすぎると愛想笑いを浮かべる。
「うおお!」
誰かがバックマーカーに追突した。激しくスピンし、コースアウトし、ガードレールにぶつかる。
追突でフロントにダメージを負い、中破状態。どうにか復帰し、ゆっくり走りながらピットを目指す。
全コースの中ほどなので、距離があり、それは自身が追突されるリスクを負っての苦労旅だった。
「あ、くそ!」
と、必死に走っているにもかかわらず、AIカーに抜かれてゆく。そんなマシンも数台見受けられた。
プレイヤーカーの後ろからのスタートだったAIカーだったが。徐々に順位を上げてきていた。
プレイヤーカーはAIカーの追跡から逃げつつ、バックマーカーを交わしてゆくという、無理難題に挑戦せねばならなかった。
すべてを承知でのことだったが、いざやってみると、なかなかしんどいもので。我慢の走りを強いられ、フラストレーションがたまってゆくのを禁じえなかった。
そんな中でもアンディ、フィチは上手いもので、一定のペースを保ちつつバックマーカーをかわしてゆき。後ろとの差も一定にキープしていた。
「さてと、どっちが先にピットかしら?」
ソキョンはひとりごちる。コーチもうなずく。このピット戦略も勝負に大きく関わる。
1回目のピットインだ。タイヤもリアル設定で、摩耗してグリップも効かなくなった。
先にピットインしたのは、レッドブレイドのKTM X-Bow GT2だ。それにともないウィングタイガーのウラカンがトップとなる。
「フィチ、しんどいけど飛ばすのよ!」
「了解!」
ウラカンのタイヤも摩耗している、次の週でピットインの予定だったが。なるだけ差をキープしないと、自分がピットインした時に抜き返されてしまう。
選手交代はなく、タイヤ交換と燃料補給だけなのですぐ済み、X-Bowはピットアウトする。
しばらく走ると、1位との差が表示される。
「うーん、うまく飛ばせないか」
ソキョンは首を横に振る。思ったより差は開かず。このままいけば次のピットインで抜き返される。
「よーしよしよし」
と優は得意げに頷く。




