第6章 24H Nürburgring 6
「ああーっと、後方でクラッシュ!」
と夜香楠が実況し、風画流が継ぐ。
「1台ではありません、複数のマシンが絡んだクラッシュのようです!」
その実況の通り、GTカテゴリーのマシンが3台、クラッシュし、コースアウトし、激しくガードレールに当たっていた。
「くそ!」
選手は叫ぶ。他は無言。それもそうだ、プレイヤーカー1台とAIカー2台のクラッシュだった。その選手はプレイヤーカー最後尾のマシンだった。
あろうことか、焦りから無茶をして、後ろを巻き込むクラッシュをしてしまったのだった。
「ああ、くそ、動け、動け……!」
右下のマシン図、エンジンマークが赤い。相当なダメージがある。何とか動かそうとするが、思うように動かない。
そうするうちに、AIカー2台は復帰して、行ってしまった。
「マジかよ、マジかよ……!」
マシンは動かない。ターミナルダメージ=致命的なダメージにより、強制リタイヤとなってしまった。マシンはうっすらとゴーストのように消えた。
24時間レースで、1周目の半分もないうちにリタイヤを余儀なくされる無念さは、想像を絶する。
シムリグで頭を抱える選手の痛ましい姿が一瞬だけ映し出され。控え室の他の選手、クルーたちも天を仰いで。非情な運命を呪うしかなかった。
これはプロの試合だ。序盤のリタイヤでも、そこで終わりである。救済措置はない。
監督は選手を慰め、控え室に戻るよう言い。クルーには撤収作業を指示した。
リタイヤした選手は力なく立ち上がり、開催スタッフに付き添われて控え室に戻り。監督の慰めのハグを受け。謝罪の言葉を口にする。
「残酷なようですが、これもプロの試合なんですね。僕でも頭を抱えて大泣きしてしまいます」
「本当に、言葉もありませんが。この悔しさを次に生かしてほしいですね」
と夜香楠と風画流も思いやる言葉を口にした。
しかしウィングタイガーとレッドブレイドの選手、クルーたちは無反応。自分のレースで手一杯。他の選手を思いやるゆとりなどなかった。
それでも、マルタは心の中で合掌する思いだった。
ソキョンは容赦なく、
「抜くのよ! Push push push!」
とフィチに発破をかける。
「わかってますよ!」
とフィチの返事。大きく息を吐き出す。
フィチはチームのバンディエラだった。ソキョンの発破には慣れっこだ。むしろ強く言ってもらった方がやる気が出るというものだった。
「アンディ、行けそうか」
「Yes。行けそうです」
「よし、頼むぞ!」




