第1章 The game begins 7
見れば、アンディのポロシャツの左肩に丸いスイカの断面のピンバッジがあった。
これは、イスラエルによる各地への侵攻・虐殺に対し、抗議の意思表示と、攻められているガザ・パレスチナなどの地域への連帯を示すためのピンバッジだった。
主に攻められたパレスチナの国旗は赤、黒、白、緑の4色からなるが。スイカはそれを連想させるので、シンボルとして使用されることも多かった。
アンディはこれについては質問はしなかった。直接的な表現は規則に抵触しかねないので、チームに迷惑を掛けないためでもあったが、それでもこうして規則に引っ掛からない程度の意思表示をするのも、やむにやまれぬ気持からであった。
SNSでも自分の名前の前にスイカの絵文字を表示させていた。
目ざとくカースティはそれを見つけて、微笑むと、アンディと目が合い、互いに頷き合った。
彼女も、アイリーンも、そういったことを知らぬわけがない。悲劇を憂え、慈善団体への寄付のためのマンスリーサポートプログラムにも登録していた。
こうした、世界情勢に関心を持ち、何らかの意思表示をするeスポーツ選手もいるのだ。
ミーティングが終わり、それぞれチームの部屋に戻ろうとした時。アンディがウィングタイガーのメンバーのもとまで歩み寄ってきて、4つのピンバッジを差し出した。
ピンバッジは、着ているポロシャツの胸ポケットに入れていたのだ。
「よかったら、つけてくれないか?」
「いいよ」
チームを代表し、フィチがそれを受け取り、それぞれ左肩に着けた。
フィチにとっても、韓国代表とパレスチナ代表の、サッカーの国際試合で、韓国サポーターがパレスチナへの連帯を表明したのを知っているから。拒む理由はなかった。
他の3名も快く着けたのは言うまでもない。
「ありがとう」
「どういたしまして。いい勝負をしましょう」
と握手をしたとき、気が付けば、レッドブレイドの他の3名の選手も来ていた。
「水くさいわねえ」
と、ヤーナは手を差し出せば、アンディは掌の上にスイカのピンバッジを置いた。雄平と俊哉も同じようにし、
「いいレースをしよう」
と、握手し合った。
それを少し離れて眺めるレッドブレイドのクルーや優に、そばのソキョンら大人たちは、うんうんと、感慨深く頷いていた。
ミーティングは終わり、それぞれ部屋に戻って。荷物を手に、ビルを出て予約してあるホテルに歩いて向かった。
ショーンが龍一になついてくる。何か言っている。
「肩車して、だって。OK?」
アレクサンドラは笑みをたたえつつ、申し訳なさそうに言う。いいよと、龍一は快く肩車すれば、ショーンはご満悦そうに、Yeahと言った。
宿泊はこことは違うホテルでであった。
道中雑談をしながら、空気はすっかり涼しくなって、秋の深まりと冬の近づくのを感じていた。




