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エピローグ

 シーズンは終わった。龍一はチームウィングタイガーを契約満了となった。

 チームのウェブサイトおよびSNSにはその旨が伝えられ。今までの健闘に感謝するとともに、新天地での活躍を祈るとの文言も添えられた。

 龍一は思い出す。

 レースを終え、撤収し、一旦ホテルに戻って。休んで。打ち上げ。

「まあ、色々あるけどそれは一旦おいといて、ぱーっとやるわよ!」

 と、楽しい打ち上げパーティーとなった。その時、楽しかったけど、夢の終わりを感じてやまなかった。

 そうだ、オレは夢を見てたんだ、それはもう終わるんだ、と。

 龍一の手には、チームウィングタイガーのファンクラブの、プラチナカードがあった。

 翼のある虎のプリントされた、プラチナカードだ。

 応援金額が一番高いプラチナコースでの入会でもらえるカードだ。龍一は所属時の健闘の返礼として、自動的にファンクラブのプラチナメンバーにしてもらったのだった。

 すべてが終わり、自分のアパートに戻った時。夢から覚めた気持ちになったのも、はっきりと覚えていた。

 プラチナカードはそれからしばらくして送られてきた。そしてこれで、ウィングタイガーの所属選手でなくなったのだという実感もあった。

 これからもいちファンとして応援してゆく気持ちは変わらないが。やはり、選手でいたかった。

 しかし、だめだった。

 プラチナカードを眺めていると、目から涙があふれて。カードに落ちた。

 泣いた、龍一はさめざめと泣いた。

 挫折だった。水原龍一、人生で初めての大きな挫折だった。

 そのチームの優しさは、厳しい現実の棘にも感じられた。でも、その棘の感覚を忘れたくないとも思った。


 それから2年経った。

 龍一は、引退していた。

 父親の経営する会社で専従者として働いていた。

 選手を続けようかどうか考えたが。父親が、会社を手伝ってほしいと懇願してきたのだ。少子化の影響で人手不足だった。

 家族じゃないか、などと言わず給料をきちんと払うことを条件に、専従者として働くこととなった。

 もともとそうして働いていたので、元鞘に収まったかたちだった。

 eスポーツ界隈では、龍一の引退はちょっとした話題になったが。次々とニューヒーローが現れる世界でもある。

 Sim racer Dragonは、すぐに忘れ去られていった。

 もっともレッドブレイドの優は、

「あいつ真面目だから、スタッフでなら欲しかった!」

 と悔しがったそうだ。そんな優と結婚して、日本国籍を得ていたヤーナは、

「ならもっと早く言わなきゃだめでしょ!」

 と鋭く突っ込んだ。

 それはさておき。

 配信もしないので、忘れられるのもなおさらだった。もともと龍一はぼっちゲーマー体質だった。フィチの誘いがなければ、選手になっていなかった。

 ただそのフィチやソキョン、アイリーンにカースティとは、連絡を取り合っていた。ファンとしての応援メッセージを送るというかたちで。

 で、Violet Girlことカースティ。

 eスポーツ選手を引退し、フルタイム海洋学者として、大海原を新たな挑戦の舞台として世界を飛び回っていた。

 この間、インドネシア沖でシーラカンスの観測をして。大興奮。その大興奮を画像を添付し、龍一へのメールでもぶつけてきたのだった。

 その前はアメリカの海。仕事の合間にアイリーンとアレクサンドラ、ショーンと会い、愛車のスバル・WRX STIに4人乗って、ドライブを満喫していた。

 そんな彼女の活躍も嬉しかった。

 そのカースティから連絡が来る。

”Hey Ryuichi! 今度日本行くから会お!”

 まるで近所の友達に会おうという気軽さである。龍一はそんなカースティの性格や人間性が好きだった。

 しばらくして、カースティが来た。

 晴れた日だ。絶好のドライブ日和だった。

 愛車のミライースを転がし、空港まで迎えに行く。そこで合流し、後部座席をたたんで荷物を乗せてやる。

「Oh cute。やっぱり日本の軽四って、Kawaii!」

「そんなにいいかな」

「いいっていいって」

 愛車を褒められ、龍一もまんざらでもない。

 運転してみるかい? と言ってみた。カースティは国際免許取得済みである。

「うん、でもまず龍一が運転して。Dragonのリアルな運転を見てみたいな」

「リアルじゃシムレーシングみたいに走れないんだけどな……」

 と、ふたり乗り込む。

「どこ行く?」

「海行こ!」

「だよね」

「Ok, Let's go!」

 ミライースは走り出す。

 とことこと。とことこと。

 海を目指して走り出す。

 

終わり

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