第6章 24H Nürburgring 45
その時ヤーナは、X-Bowは、丁度いいところ、終盤のロングストレートだった。コース上5秒差前でウラカンがいる。
最終コーナーを抜け、ウラカンがメインストレートを駆け抜ける。それから5秒して、X-Bowがメインストレートに姿を現した。
風画流が実況する。
「優勝は、レッドブレイド! 今ゴールラインにいたり、チェッカーを受けました!」
「長い長い24時間耐久レースも、ついにゴールです。X-Bowがチェッカーを受け、各車チェッカーを受けてゆきます!」
と、夜香楠が話を継いだ。
レッドブレイドの面々は狂喜乱舞だった。1位だ、優勝だ。Forza Sim Racing、日本リーグでチャンピオンとなり、シーズンの締めくくりとなるこの耐久レースでも勝った。まさに狂喜乱舞であった。
シムリグで、ヤーナは拳を握り締め、タトゥーの入った左手を高々と挙げた。
「やったわ、勝ったわ!」
絶叫した。抑えきれない感情が爆発する。トップ3の選手はスタッフに指示され、表彰式スペースへと移動した。
ヤーナらトップ3の選手はライバルのシムレーサーからも拍手を受けて、スペースへ向かった。
ニュルブルクリンクは長い。なので、チェッカーを受けたら、自動終了となって。画面は待機画面に変わった。
X-Bowがチェッカーを受け、およそ8分弱でウラカンも8位でゴールし。レースは自動終了、待機画面となった。
夜香楠が実況する。
「長い長い24時間耐久レースが終わりました。本当に素晴らしいレースでした。……ああ、なんと言えばいいのか。実況の僕が感激しても仕方ないのに、どうしても感激して、言葉になりません」
「私もです。このお仕事のオファーを受けた時、新しい挑戦だと思ってお引き受けしたのですが。感激しちゃって、私も言葉がありません。選手やクルーの皆様も、本当にすごいです」
と、風画流も声を詰まらせた。
4位以下の選手は、控え室へ戻るよう促されて、戻っていった。それと入れ替わりに、トップ3のチームのクルーたちが会場に入っていった。
「お疲れ。いいレースだった」
優は龍一とすれ違いざまに握手を求めて手を差し伸べた。
「こちらこそ、ありがとうございます」
龍一は差し出された手を握った。それから、レッドブレイドの他の3選手やクルーと握手を交わした。
「次は……」
という話はなかった。出来なかった。
チーム残留がならないのは、皆わかっていたので。無難に労い合うしかなかった。
控え室へ戻れば、拍手で迎え入れられた。
「今まで、お疲れさん。よく頑張ってくれたわ」
ソキョンはそう言い、龍一と握手を交わし。それからフィチ、アイリーンにカースティ、優佳やアレクサンドラにマルタ、ショーンらと、握手を交わし合った。
「こちらも、今まで、お世話になりました」
握手を交わし終えて、龍一は深々とお辞儀した。
それから、皆で表彰式を見届ける。
レッドブレイドの4選手、ヤーナ、アンディ、俊哉、雄平らが、カップを持ち上げる。
本当なら自分たちがしたかったことだ。それを他人がするのは、やはり悔しかった。そこで、やっぱり自分は負けたんだと、実感した。
健闘を称えつつも。




