第6章 24H Nürburgring 44
「Go!」
すかさずソキョンが指示を飛ばし。言われるまでもないと、龍一はX-Bowのインラインを走った。一緒にAIカー2台も抜こうとする。
「!!」
ヤーナはコーナー立ち上がり、アクセルを踏もうとして咄嗟にブレーキを踏みつけた。
なんとあろうことか、ウラカンのひとつ後ろのダッヂ・ヴァイパーGTSは急ブレーキを仕掛け、後ろのベントレー・コンチネンタルに追突させようとしたのだ。さらに、コンチネンタルのテールランプも真っ赤に光り、ヤーナの眼前に迫った。
「やばい!」
シムレーシング名物の、AIの悪質妨害か!
X-Bowはコンチネンタルのテールに追突するかと思われたが。ヤーナの咄嗟のブレーキングのおかげでそれは免れた。
しかし、ヴァイパーのテールにコンチネンタルは追突し、ダブルクラッシュ。その横を、X-Bowが素早く走り抜ける。
2台のAIカーはコース外へと吹っ飛んでいった。
夜香楠が実況する。
「危ない! AIカーの9位ベントレーと10位ヴァイパーが接触、ダブルクラッシュです!」
「トップのレッドブレイドのX-Bowも危うく巻き込まれそうでしたが、間一髪で逃れました。本当に危ないところでした!」
と風画流が話を継いだ。
「あっぶねー!」
レッドブレイドの控え室で悲鳴に近い声が上がり、次いで安堵のため息が漏れた。
その間に、ウラカンはずっと向こうに走り去っていた。ブレーキを掛けて追突を回避する間に、差が広がってしまったのだ。
「もういい、無理せずゴールを目指せ!」
優は怒鳴るような大声で言い放った。ここでまた何かあってリタイヤになれば、元も子もない。
ヤーナひとりのレースではないのは、さらに言うまでもない。
「わかったわ」
危うい場面がかえってクーリング効果をもたらし、ヤーナは無理せずゴールを目指すことにした。
「龍一、もういいわ。あんたはよく頑張った。もう無理しないでゴールを目指しなさい」
「わかりました。何かあったんですか?」
「あんたの後ろにいた2台のAIがダブルクラッシュして、X-Bowも危うく巻き込まれそうになったのよ」
「マジっすか!?」
「マジよ。アクシデントがあっても周遅れにならず、ひと桁の順位でゴールが出来たんなら、まあいいって感じよ」
「わかりました」
指示通り、龍一は無理せずに走ることにした。前とも後ろとも差が開き、ひとり旅だ。
時間は刻々と過ぎてゆく。午後2時半を回り。それからも刻々と。
上位10位は小康状態で、順位の変動はなかった。各マシンは、ゴールを目指して走った。
……そして。
午後3時となった。




