第6章 24H Nürburgring 43
(最後ぐらいは、龍一を信じてあげよう)
そう自分に言い聞かせた。龍一は技量と真面目さを兼ね備えた、稀有な選手だった。
最悪の事態が起こらないように、彼自身もきちんと判断するだろう、と。
ウィングタイガーの他のクルーたちは、画面を固唾を飲んで見守った。雑談も少なくなっていった。
マシンは走り。時間は刻々と進み。ゴールの時間が迫ってくる。
さすがに、早く終われと思うこともしばしばあった。24時間戦うことは、本当に辛いことだった。全て承知でレースに参加しているといっても、やはり辛いものは辛い。
レッドブレイドの面々は、優勝するかしないかである。皮膚が焼けるような、ヒリヒリする感じを感じまくっていた。
「夜明け前が一番怖いって諺があったな」
優はぽそっとつぶやいた。今がまさにその夜明け前に相当する時間帯だった。
レッドブレイドの他のクルーたちも、画面を無言で見据える。
ウラカンを前に行かせろ!
何度そう言いたくなったかわからない。しかし、
(ヤーナのやつを信じてやりてえが……)
と、今のところは、堪えていた。
「あきらめた? んなわきゃない」
ヤーナは龍一が仕掛けてこないので、ちらっとミラーを覗いた。無理に仕掛けず、じっくり機会をうかがうことにしたっぽいのは感じたが。そのまた後ろにもマシンがいるのも知っている。
前を追うより後ろを防ぐのを優先しているのかもしれない。
コーナーを右に左に、坂を上ったり下ったり、バックマーカーをかわすのに右に左にまた蛇行。なかなかに忙しい、その上抜きつ抜かれつのバトルまでするでのある。
よくそんな器用なことが出来るものだと、自分ながら感心したものだ。
結局そのままの状態で周回し、メインストレートに戻って来た。
ウラカンはX-Bowよりややイン側にライン取りをするが、それにとどめ仕掛けない。威嚇としたものだろうか。
第1、第2コーナーをクリアし、GPコースを駆け抜けてゆく。
「龍一、どんな感じ?」
「ヤーナさんがいいペースで走ってくれてるんで、良い感じで引っ張ってもらってます」
「後ろは?」
「こっちの隙をうかがっているっぽいですけど、それだけですね。こっちのペースがいいんで、着いて来るのがやっとなのかも」
「わかったわ」
ソキョンとのやりとりはそこで終わった。何か指示でも出されるかと思ったが。
「ヤーナ、ウラカンを先に行かせろ!」
優だった。かなり強い、命令口調だった。
「……」
ヤーナは応えなかった。すかさず優は、
「行かせろ!」
と、再び強く言った。
「……、わかったよ」
しぶしぶながら応えた。右のヘアピンを抜け高速S字をクリアし、次は直角の左コーナー。そこでアウトラインを取り、インを開けた。




