第6章 24H Nürburgring 42
夜香楠が実況する。
「さらに、AIカーの2台、ダッヂ・ヴァイパーGTS-Rとベントレー・コンチネンタルもこのバトルに加わりそうです」
「それにしても驚かされるのが、Honey Bear選手の動向です。先に行かせても問題ないのですが、ラインを塞ぎ、抜かせません! やはりこれもシムレーサーとしての意地でしょうか!」
風画流が話を継いだ。
まずGPコース。3台のマシンはパッシングの機会をうかがう。
ヤーナも先にはいかせない。
「やはりそうなったか」
優は苦笑するしかなかった。他の3選手にクルーは固唾を飲んで画面を見守るしかなかった。
「どうしますか? あんまり粘っても、何かあったら……」
「まあ、待て。しばらく様子を見よう」
他のクルーが心配になっているのを、優は諫めた。ヤーナの性格を承知の上で使っているのだ。
4台のバトル状態ではあるが、コースのいたるところにマシンがいる状態で、それらを右に左にかわしながら走らないといけない。
だから、追走状態でも、順位の変動はなかった。何より龍一の場合、何かあった時のペナルティーはより重いのだ。さすがにそこまでの迷惑をチームにかけるのは、はばかられた。
「煽って道開けさせようたって、そうはいかないよ!」
ヤーナは前を見据えて、そう言った。
「まったく、やっぱりすごい人だ。でも、そうでなくっちゃな」
龍一は追いつつ感心していた。道を譲っても問題ないし、その方が楽なのに。だがそれがヤーナなのだ。龍一もそんなところに好感を抱いていた。
GPコースを抜け、ノルトシュライフェに入る。土手に挟まれ、道も狭く、エスケープゾーンも狭く。ラリーのターマックコースのようなくねくね道のくせに、スピードは出る。
「……」
X-Bowに煽りを入れた龍一だが、やはり思い直して、追走にとどめた。そうすれば、後ろからAIカーが仕掛けてくる。
ミラーを瞬時に覗き、巧みにラインを塞ぐ。
ヤーナは良いペースで走っているので、それに追走して引っ張ってもらう。追われるより、追う方が楽なのはレースの常識。とはいえ、後ろのAIカー。
後ろに神経を使いすぎても引き離されかねない。なかなかに難しい立場だ。もっとも、立場を考えればそれらを放棄し、AIカーも先に行かせ、ゴールまでひとり旅と割り切ってもいいのだが。
なんか、そういうことに強い抵抗感があった。それをしたら本当に負ける、と。
その一方で。
もういいよ、あんたよく頑張った。楽な走りして。
ソキョンは、そんな言葉が何度も喉まで押し寄せた。しかし堪えた。




