第89話
リビングに入り、椅子に座らされた。
俺の隣が梨蘭。前にはお父さんとお母さんが座り、迦楼羅さんはソファーに膝立ちになっている。
とりあえず誠実に。悪印象を与えないようにしないと。
心の中で数回深呼吸し、口を開いた。
「はじめまして。梨蘭さんとお付き合いさせていただいております、真田暁斗です。こちら、皆さんがお好きとお聞きしました。どうぞ食べてください」
「これはご丁寧に。ありがとうございます」
お母さんに紙袋を渡すと、お父さんが大口を開けて笑った。
「はっはっは! さすがアキト君! 噂に違わぬ誠実っぷりじゃないか!」
はて、噂とは?
「でしょ!? 前にリラが風邪ひいてお見舞いに来てくれた時も、お見舞い品を買ってきてくれたんだよ!」
いや、あんたのせいか。
「そんな、自分なんてまだまだで……」
「謙遜! 謙遜してるぞ母さん!」
「父さん、うるさい」
「うぃっす」
お父さんを一言で黙らせたお母さん。お父さんは若干しょんぼりした。
久遠寺家のヒエラルキーを見た気がする。
けど、直ぐに復活すると、腕を組んでうんうんと頷いた。
「それにしても……いやぁ、梨蘭が恋人……しかも運命の人を連れてくるなんてなぁ。時が過ぎるのは早いな」
「そうね。ほんの少し前は、夜な夜なアキト君、アキト君言ってたのに」
「ママ! 今それ言わなくてもいいじゃん!!」
真っ赤な顔で涙目になる梨蘭。秘密を暴露されて可哀想なことになってる。
って、え。梨蘭、夜な夜な俺のこと呼んでたの? 可愛すぎか? 俺の彼女可愛すぎか?
「そ、そんな顔で見んな、ばか……!」
ぷいっ。そっぽ向かれてしまった。
そんな可愛い反応されると……ほら見てみろ。ご家族もニヤニヤしてるじゃないか。
ちきしょう、恥ずかしすぎる。
「さて、色々と話を聞きたいところだが……アキト君。重大なことを君に聞きたい」
お父さんは手を組み、どっかの司令官の如く前のめりになる。
な、なんだ? 何を聞かれるんだ?
「……はい。何でしょう」
とにかく今は、聞かれたことに誠実に答えるしかない。
背筋を伸ばし、お父さんの次の言葉を待つ。
待つこと数秒。
ようやく、口を開いた。
「孫はいつ見せてくれるのかな?」
「ぶふぉっ!?」
予想外も予想外。予想外オブ予想外の言葉に、肺の中の空気が一気に吹き出した。
いいボディーブローをみぞおちに食らった時のような感覚。くっ。やるな、お父さん……!
「パパ何言ってんのよ。サイテー」
「えぇ……パパ、今のはないわー。引くわー。最低だわー」
「父さん、実の娘にセクハラするなんて、見損なったわ。最低ね」
「泣いた」
すみません、お父さん。今のは擁護できません。
「こほん。さて、このアホは置いといて」
「アホって。母さん、それは言いすぎじゃないかな」
「何か言った?」
「お口チャックおじさん」
自分で自分の口をチャックするお父さん。
お母さんの圧も梨蘭そっくりだけど、お父さんの言動も迦楼羅さんそっくりだ。
やっぱり、2人の親なんだなぁ。
「で、アキト君。梨蘭は普段どうかな? 思春期とは言え、親の目から見ても結構面倒な性格をしてると思うんだけど」
「ちょ、ママ、変なこと言わないでよ……!」
あー、親からしても、やっぱり面倒な性格してるんだな、梨蘭は。
さて、どう答えたものか。
……いや、ここは素直に答えよう。男は素直が1番だって、爺ちゃんも言ってた。
「そうですね。面倒な性格なのは否定できません」
「あ、暁斗。アンタね……!」
ごめんて。だからそんな睨まないで。怖いから。
「でも……今はそんな所も含めて、愛おしく思えます」
思い出されるのは、あの日のこと。
雨の日の公園で見せてくれた、本心。
梨蘭が勇気を出してくれた。素直になれなかった心を開いて、1歩踏み出してくれた。
それがあるから、今の俺達がある。
感謝してもしきれない。
なら、今は俺が自分の気持ちに素直になろう。
「素直じゃないところも。たまに見せる本心も。ふとした時の大輪の花のような笑顔も。ちょっといたずら好きなところも。いじり過ぎちゃって拗ねてるところも。慌てると突っ走っちゃうところも。友達思いで優しいところも……好きです。まだ付き合い始めて間もないですが、少しずつ、彼女のことを知りたいと思っています」
偽らざる俺の本心。
それをお母さんとお父さんは、真っ直ぐな目で聞いてくれた。
「……そう。本当、よくうちの子を見てるわ」
「そうだなぁ。よかったな、梨蘭。アキト君は梨蘭のこと、大好きみたいだ」
「愛されてるねぃ、リラ」
ニヤニヤ、ニヨニヨしている3人が、梨蘭を見ている。
俺も横目で見てみると。
「…………(白目)」
「うぉっ!?」
えっ、大丈夫か!? 顔真っ赤で気絶してるんだけど!? あと魂抜けてない!?
「我が娘ながら、うぶいわねぇ」
「昔の母さんを見てるようだ。母さんも昔はなぁ」
「ちょっ、父さん!」
お父さんの口を、手で塞いで止めるお母さん。しかも顔を真っ赤にして。
なるほど、本当にそっくりな親子だ。梨蘭そっくりだから、正直めちゃめちゃ可愛く見える。
「にしし。アキト君、やるねぃ君も。前に会った時とは大違いだ」
「っと。か、迦楼羅さん……」
いつの間にか俺の背後にいた迦楼羅さんが、俺の肩に手を置いた。
肩越しに覗き込んでくる顔も、ビックリするくらいの美形。遺伝子ってすごい。
「ま、妹を頼むよ。未来の義弟君♪」
「……ええ、任せてください」
「おや。今回は否定しないんだね」
「覚悟は決めました」
「……本当、いい男だよ君は」
耳元で甘い声で囁かないでください。
頭撫でないでください。
「って、梨蘭気絶したままですけど」
「「「あ」」」
いや。あ、って。
【評価】と【ブクマ】が済んでいないという方がいましたら、どうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




