第64話
◆
「えっ、知ってた? 俺の気持ちを?」
互いの気持ちを確かめ合い、キスをした俺達。
なんだか急に気恥ずかしくなったのか、梨蘭はさっきと同じように俺の前に座り直した。
詳しい話を聞くと、土御門から校舎裏で告白されてた時、スピーカーを通じて梨蘭に聞かれてたらしい。
えぇ……なにそれ、どゆこと?
「つまり、土御門はお前に俺の気持ちを聞かせるために告白してきた、と?」
「あの時はね。でも喫茶店の時は本当に焦ったわ」
「あー……なるほど」
土御門は、俺の中にある梨蘭への気持ちにいち早く気付いていた。そして、自分には勝ち目がないと考え、こんなことをしたってことか。
あいつもお節介だな。
と、テーブルの上に置かれた俺の手を、梨蘭がそっとつついて来た。
「な、何だよ」
「んー……何だか夢みたいだと思って」
今までにないほど幸せそうな顔をする梨蘭。
まあ梨蘭からしたら、ずっと好きだった俺と『運命の赤い糸』で結ばれてて、こうして付き合うことになったわけだから……確かに夢のような話だ。
でもいい加減つんつんするのはやめてほしい。こそばゆいから。
「ねえ。私達が付き合い始めたこと、誰かに言うの?」
「そうだな。俺らのことを知ってる奴らには言うか。何だかんだ、見守ってくれてたわけだし」
龍也だろ、寧夏だろ。あとは琴乃、竜宮院、迦楼羅さん。
それに……土御門と乃亜。
この2人は言おうか迷うけど……ケジメとして、報告した方がいいのかな。
特に乃亜は、まだ俺のこと諦めてないみたいだし。
……俺達が付き合い始めたことの報告、か。
「……? ……??」
あ、あれ? なんか自覚したら、途端に恥ずかしくなってきたぞ……!?
梨蘭も同じことを思ったのか、顔が一瞬でリンゴのように真っ赤になった。
それを見た俺も、今までにない程体が熱くなったのを自覚する。
いや、マジで……え、俺達付き合い始めたの?
だって、あの梨蘭だぞ。
中学の頃から完成されたような容姿とプロポーションで、赤い糸がなければ付き合いたい女子ナンバーワンとまで言われた、あの梨蘭だぞ……!
俺からしたら常に噛み付いてくる天敵のような女だったから、余り意識してなかったけど。
いざ、こうして見ると……やばい、ほど、可愛い……!
「ま、まままままあ、少しずつ、程々に、な……!」
「そっ、そうっ、ね! 程々にっ、程々に……!」
顔を逸らして深呼吸する。
自覚というのは恐ろしいもので、俺史上類を見ないほど心臓が高鳴っている。
俺、こんなに梨蘭のこと好きだったのか……!?
梨蘭をチラ見。
俺を見てたのか、それとも同じタイミングで見てきたのか。
ばっちり目が合ってしまい、同時に目を逸らした。
仲良しか!
いや濃緋色の糸で結ばれてるから、仲良いことはいいことなんだけどね!
「か、帰るか」
「ぇ……帰るの?」
その捨てられそうな子犬みたいな顔やめろ。
「こ、このままだと体も冷えるだろうしな。風邪引かないためだ」
「……わかった……」
「その代わり、家まで送ってってやるから」
「わかった!」
切り替わり一瞬だな。
ニコニコの梨蘭は自分の傘を開くと、雨の中足を踏み出した。
俺も後を追うように、濡れた地面に足を踏み入れる。
さっきまで相当降ってたのに、今は軽い小雨程度だ。これなら、濡れずに家まで送れそうだな。
「…………」
「…………」
互いに無言で、雨の中を歩く。
ピンクの傘をさす梨蘭を見ると、どことなくご機嫌なようだ。
そんなご機嫌な梨蘭を見ると、俺まで嬉しく思う。
人間は知らないことやわからないことに、本能的に恐怖を持つ生き物らしい。
さっきまでは梨蘭の気持ちがわからず、一緒にいても気まずさがあった。
でも……今は違う。この無言さえ、心地いい。
それは梨蘭の気持ちを知ったからだろう。
なんとも単純な生き物だな、俺は。
「私、雨って好きよ」
俺の隣を歩く梨蘭が、そっと呟いた。
「……どうした、いきなり?」
「んー。なんとなく、言ってみただけ」
「何だそりゃ」
「ふふ。理由は、アンタ」
何だそりゃ。
ごめん、さっきの言葉訂正する。
想いは通じあっても、やっぱり他人ってわからん。
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