第63話
◆
その後、寧夏の家で食事を頂き、俺と梨蘭は家を後にした。
屋敷を出て、しばらく無言で歩く。
……なんとなく、気まずい。
成り行きというか、仕方がなかったというか……よく梨蘭も、あんな作戦に同意してくれたもんだ。
だって、あんなの……。
「ねえ、暁斗」
「なっ……なんだ?」
い、いけない、いけない。平常心、平常心。
「さっきの作戦、アンタちゃんと意味わかってる?」
「……何のことで?」
「だってあんなの……私と、ずっと一緒にいるってことでしょ?」
……バレてたか。
そう、あの作戦は俺と梨蘭がこの先ずっと一緒にいることが前提になる。
この作戦を固めた時、梨蘭に変わった様子がなかったから、バレてないと思ったんだが。
「……ごめん」
「どうして謝るのよ」
「だって、お前の人生なのに……」
「……ねえ、この作戦を一緒に考えた時、どうして私が否定しなかったか……わかる?」
「え? ……ぁ……」
そうだ、確かに。
気付いてたのなら、この作戦を立てた時に否定できる。
でもしなかった……それは何故か。
……何故だ?
「……公園、寄るわよ」
「お、おう?」
何かと因縁のある公園に寄り、自販機で飲み物を買う。
まだ昼間だが、雨が降っているから公園には誰もいない。
いつもの休憩スペースも、今は俺と梨蘭だけだ。
「…………」
「…………」
互いに無言。何から話せばいいのか……とりあえず俺から話し掛けるか。
「えっと……どうして俺の作戦に賛同したか、だったよな? 正直、皆目見当もつかないんだが……」
「ま、アンタはいつもそんな感じよね」
「バカにしてんのか?」
「褒めてるわよ」
とてもそうは聞こえなかったけど。
「そんなムスッとしないの」
「してない」
「全くもう……」
くすくすと鈴を鳴らしたように笑う梨蘭。
こいつ、こんな風にも笑うんだな。
「さて、何で私があの作戦に反対しなかったかよね。暁斗の考えは?」
「……やっぱり、十文寺家の会社に入るメリットがでかいからか?」
「ぶっぶー」
人差し指を口の前でバツにした。
……え、ぶっぶー? あの梨蘭がぶっぶー?
目を白黒させてると、梨蘭も自分の行動が恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にした。
「こ、こほん。とにかく、その考えは間違いよ。私があの作戦に賛同したのは、私のため」
「梨蘭の?」
何だそれは。それこそ、自分自身の将来を考えて……いや、それは違うって言ってたな。……んん????
首を傾げてると、梨蘭は俺の隣に移動してきた。
「倉敷と寧夏を見て、思ったのよ。素直に気持ちを言葉にするのって、すごく大切なことなんだって」
「あいつらは素直すぎる気がするけどな」
「そうね。でも素敵だわ」
まあ……そうだな。2人は自分の気持ちを真っ直ぐ両親にぶつけた。俺達の助けがあったとは言え、それでも自分達の未来を勝ち取った。
対して、俺達は……いや、俺は自分の気持ちを言葉にするのが怖い。
梨蘭も、最近では俺に対してそこまであたりは強くない。
今俺達の関係は、明らかにいい方に進んでいる。
俺は、その関係を壊したくない。
それが……怖い。
自分の意気地の無さに凹んでると、梨蘭が俺のひたいに手を伸ばし……ぺしっと引っぱたいた。
「何すんだよ」
「んー? んふふ。何かしらね」
ぺしぺし。ぺしぺし。いや叩きすぎだ。
未だにぺしぺしひたいを叩き、何故か耳をもみもみしてきた。
正直、これだけでやばいと言うか、理性をゴリゴリに削られる。普通に触れられるだけでもダメなのに、こんな風にやられたら……!
崩壊しかけた理性に鞭を打って、少しだけ距離を置こうと腰をあげる。
が、梨蘭はムッとした顔で耳を少し引っ張った。
「逃げないで」
「だ、だってこれ……!」
「だーめ」
「にゅっ……!?」
ほ、頬、左右から挟まれて……!
「何かしら……あの2人の幸せな姿を見たせいなのかもしれないわね。今の私、ちょっと大胆かも」
「り、梨蘭……?」
少しでも動けばキスできそうなほど、詰め寄られる。
紅葉を散らしたような頬。
肌に当たる息。
とろんとした、俺を見つめる緋色の瞳、
雨が徐々に強くなり、周りの音が聞こえづらくなる。
そんな中、心臓の鼓動と俺達の呼吸音だけが、異様に大きく聞こえ──。
「暁斗──好き」
「────ッ」
ぇ……ぁ……?
なん……え……?
「好き……本当は、大好き……ずっとずっと、好きだった」
「ちょ、り、りらっ、おおお、おちつ……!」
なんだ、なんだ、なんだ!?
何が起こってる? え、梨蘭が俺のことを好き? ……好き!?
かつてないほど頭が混乱している俺をよそに、梨蘭は俺の首に腕を回した。
「今までは、アンタを前にすると緊張しちゃって、パニックになっちゃって……素直になれなかった。でも、今はあの2人に感化されたからかしら……自分でも、すごく素直になれてる」
素直。
さっきからこの言葉をよく使っている。
俺の前では緊張する。俺の前ではパニックになる。
つまり、だ。
「……ツンデレ?」
「ツンデレ言うな」
いや、え、えぇ……なんだそれ。梨蘭、俺のこと好きだったの……?
「いきなりこんなこと言われて驚くかもしれないけど、本当よ。赤い糸が出るずっと前から……私は、あなたのことが好き。だからアンタとずっと一緒にいられると思って……」
「それが、自分のためってことか……?」
「ん」
梨蘭は、恥ずかしそうに頷く。
なるほど、そうだったんだな……。
これは……もう俺も、自分の気持ちを抑えられそうにない。
「梨蘭、俺もだ。俺も……梨蘭のことが、好きだ」
「ん……暁斗……」
「梨蘭……」
梨蘭の腰に手を回し。
どちらともなく、ゆっくりと、口付けした。
今まで感じたことがないほどの電撃的な衝撃と、体を貫く快感。
それ以上に心を満たす、幸福の嵐。
梨蘭も同じように思ってるのか、一度口を離すも直ぐにキスをせがむように腕に力を入れた。
「暁斗、好き……大好き」
「梨蘭……俺も、好きだ」
視界を遮るほど激しくなる雨音。
しかしそれは、まるで俺らを祝福する歓声のように聞こえた──。
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