第59話
◆
「2週間後か。思ったより期間が空いたな」
「うちの両親も忙しいからねぃ。しょーがないさ」
寧夏の懇願の末、2週間後の土曜日に空きがあるとのこと。
家族なんだから、そんなアポイントメントみたいなことする必要ないと思うんだが……そこは、家の事情があるんだろう。
「その間はどうする? 流石に何もしないって訳にもいかないだろ」
何か策があればと思ったが……。
「まあねぃ。でも何をするかはさーっぱり」
「正直、俺も」
「「へーい!」」
へーいじゃねーよ。ハイタッチすんなよ。
けしかけた俺が言うのもなんだけど、能天気だな2人とも。
そんな2人を白い目で見ていると、龍也が外国人のように肩をすかすジェスチャーをした。
「ま、今のは冗談にしてもだ。……悪い暁斗。ちょっとネイと2人にさせてくれ」
龍也が隣に座る寧夏の手を握る。
寧夏も驚いたように目を見開いたが、意図が伝わったらしくその手を握り返した。
赤い糸で繋がっている同士の絆みたいなものか。
いいな、こういうの。
「……ま、2人で積もる話もあるだろうからな。今日は帰るよ。またな、2人とも」
「ああ。またな」
「またね、アッキー」
2人に挨拶し、部屋を後にする。
何か色々とあったな……寧夏が政略結婚するとか、2人が赤い糸で繋がってるとか。
だけど、寧夏の両親を説得する決定打がない。
2人は2人で何か考えがあるみたいだったけど……俺だって、ただ指をくわえてみてるだけはイヤだ。
でも俺1人じゃあどうしようもない。となると。
スマホを取り出し、ある人物のメッセージ履歴から通話ボタンを押す。
プルルルルル、プルルルルル、ガチャッ。
「あ、もしも──」
ガタッ! ゴシャッ! ドガシャアアアアアッ!!
うお!? な、なんだ!?
「お、おい? 大丈夫か?」
『だっ、だだだだっ、だいだいだいだいすき……じゃなくてっ、大丈夫よ……!』
「そ、そうか」
全然大丈夫じゃなさそうだけど。
とりあえず気を取り直して。
「突然悪い。手を貸してくれ。……梨蘭」
『──2人のことね。わかったわ。この前の公園で話し合いましょう。15分後には着くわ』
「助かる」
電話を切り、小走りで公園に向かっていく。
……ん? そういや俺、手を貸してくれって言っただけで、どんな内容かなんて言ってないよな。
それなのに龍也と寧夏のことだって察してくれた……単に察しがいいからなのか、それとも『運命の赤い糸』で結ばれてるからできる以心伝心なのか。
んー……わからん! とにかく今は公園に向かう!
◆
電話を切ってから20分。
屋根のある休憩スペースで待っていると、5分の遅れで梨蘭は公園へとやって来た。
「ご、ごめんなさい。ちょっと遅れちゃって……」
「いや、大丈夫……だ……?」
パステルピンクのモコモコの部屋着に、水玉の傘。
雨の降る夜闇でもわかるほど赤らんだ顔。
前髪をしきりに整え、ソワソワとしている。
「な、何よ」
「……あ、いや、何でも……」
やっべぇ、普通に見とれてた。
落ち着け俺。今日はそんなことのために呼んだんじゃないんだ。
「悪いな、急に」
「大丈夫よ。それで何があったの?」
「……余り驚かずに聞いて欲しい。そんで、聞いた上でどうすればいいのか一緒に考えて欲しい」
「……わかったわ」
テーブルを挟んで俺の前に座る梨蘭。
その前に、買っておいたミルクティーを置いた。
掻い摘んで、龍也と寧夏の現状を話していく。
梨蘭は顔色は変えず、驚いたような顔をしていたが、俺が話終わるまで真剣に聞いてくれた。
「うん。大体のことはわかったわ。その上で言えることは、私達にできることはない」
「そんな──!」
「聞きなさい暁斗。私とアンタが赤い糸で結ばれてるけど、あの2人とは言わば赤の他人。人の人生に介入できる権限も権利もないのよ」
梨蘭の言葉に、反射的に立ち上がった。
そんな俺の目を、梨蘭の緋色の瞳が見つめる。
「倉敷と寧夏は、『運命の赤い糸』で結ばれてるのよね。でも2人には強大な壁が立ち塞がった。それを乗り越えられるか、乗り越えられないかで、2人の運命は決まる。2人で乗り越えるしかないのよ、これは」
何も……できない……。
俺は、2人のピンチに本当に何もできないのか?
もし2人が本当に離れ離れになったとき、「それが運命だったんだよ」って慰めの言葉をかけるのか?
──クソ喰らえだ──
「……あいつら、いいやつなんだ。こんな俺とも親友でいてくれて、いつも元気で、いつも笑ってて……」
「暁斗……?」
無意識のうちに、拳を握ってた。
爪が肉に食い込むが、そんなの知ったことか。
「……そんな親友がピンチなのに、知りませんじゃダメなんだ……運命だから仕方ないじゃ、ダメなんだよッ!」
「……はぁ……本当、アンタってバカねぇ」
「なんだと!」
「いい意味でよ、バカ」
ん? そうか、それなら……って、いい意味でのバカってなんだ?
「全く……まあ、もうアンタに運命を狂わされた人間はいるわけだし、今更1人や2人増えたところで変わらないわよね」
「え、俺そんな記憶ないんだけど」
「私でしょ、ひよりでしょ、安楽寺さん。知ってるだけで3人よ」
身に覚えがないんですが。
「ま、そんなアンタを私は……っ、な、何でもない!」
「お、おう?」
よくわからないが、梨蘭は咳払いをし。
「いいわ、やってやろうじゃない」
「! ……助かる。ありがとう、梨蘭」
待ってろよ2人とも。
俺らも何とかしてみるからな。
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