第51話
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「とゆーわけで! 今日は泊まらせてもらうことになりました!」
「いいんじゃないか?」
「だからセンパイ、反応が淡白なんですってば!」
いや、こいつがうちに泊まるなんて今更だろ。結構な頻度で泊まってるし。
そんな反応が不服みたいで、乃亜はむーっと頬を膨らませた。
「センパイ、お泊まりですよ? 超絶美少女の現役JCがお泊まりするんですよ?」
「自分で超絶美少女とか言うなよ……いやまあ美少女なのは認めるけど」
「ちょ、急にデレないでくださいっ!」
「デレてねーよ」
先にも言ったが、世間一般に見て、こいつの可愛さは女子中学生でも一線を画している。
琴乃と比べても、遜色ない美少女っぷりだ。
だからって興奮もしないし、邪な気持ちが湧くわけではない。
立ち位置的には厄介事を巻き起こす妹……琴乃みたいなもんだからな。
「ぶぅー。ちょっとは男子高校生らしく、エッチな妄想とかしたらどうですか? お風呂でばったり鉢合わせとか、無防備な格好で寝てるウチに興奮するとか」
「そんなラブコメ的展開はありえないな」
「どうしてです?」
「俺がそんな隙を晒すとでも?」
相手が誰であろうと、犯罪だったり事案だったりすることは徹底的に避ける。
腕に抱き着かれるくらいならまだいいが、裸だったり、寝てて意識がない時には近付かない。
いつそいつが敵になって訴えられるかなんてわかったもんじゃないからな。これも1つの自衛だ。
なんてことを語ると、乃亜は半目でそっぽを向いて何か呟いた。
「(もう少し隙を見せてくれてもいいのに……)」
「なんだって?」
「なーんでーもなーいでーす」
あれ、怒ってる?
俺、何か怒らせるようなことしたか?
……ま、こいつが急に不機嫌になることなんてザラだから。気にしなくていいか。
「琴乃、父さん達は?」
「それがねぇ、なんか今日外泊するんだってさー。明日の朝イチでしか見られない絶景を見に行くことにしたって言ってた」
本当、唐突すぎるんだようちの両親は。
まあこっちも今更か。お互いもうすぐ40歳になるんだから、息子的には少しは落ち着いて欲しい。
……それが気にならなくなるのが、赤い糸なのかもなぁ……。
「乃亜、おじさんとおばさんには言ったか?」
「2人もいつもどーりオーケーもらいましたよ」
乃亜の両親も、友達の家に遊びに行かせるの気軽過ぎるんだよな……一応俺も男だから、そこの所警戒して欲しい。
まあ、俺と乃亜の両親も浅からぬ関係だから、信頼してもらえてるんだろうけど。
「泊まるのはいいけど、ちゃんと勉強しろよ」
「ぶー、お兄は硬いなぁー」
「硬くするのはベッドの上だけでいいんですよ、センパイ」
「「ねー」」
「ねー、じゃないわ!」
なにナチュラルにセクハラして来てんだこいつは!
あと琴乃、お前も悪ノリに乗るな!
「たく……配達イーツ頼むけど、お前らどうする?」
「私、ハンバーガー!」
「ウチ、ドーナッツ!」
「乃亜、ドーナッツはご飯じゃないよぅ」
「何言ってるの琴乃。甘いものはJCの栄養源。甘いもの食べてれば100歳まで生きていける!」
「そーなの!?」
んなわけあるか。
「デザートにドーナッツも買ってやるから、ちゃんとしたもん食え。でかくなれないぞ」
「やだー、センパイのえっちー」
「胸のことじゃねーよ」
自分の胸を隠しつつ、挑発するような笑みを浮かべる乃亜。
今日のこいつ、なんか絡み方がウザイというか、色気を出してるというか……あ、ウザイのはいつも通りか。
とにかく、いつもとちょっと違う気がする。3年も一緒にいるから、間違いない。
配達イーツに昼飯を頼み、チラっと乃亜を見る。
鼻歌交じりに、リビングのソファーでスマホをポチポチいじっていた。
ふむ、今がチャンス。
「琴乃、ちょっと」
「あいあい?」
琴乃を廊下に呼び出し、扉を閉めた。
「あいつ、今日おかしくないか?」
「……お兄、気付いてたの?」
「あれだけいつもと違うとな。理由はわかんないけど」
「気を付けないと、いつか刺されるよ」
「琴乃、お兄ちゃんを舐めるなよ。ナイフを持ったヤツくらい簡単に……って、今はその話はどうでもよくて」
「待ってお兄っ。今とんでもないこと聞いちゃった気がするんだけど!? え、ナイフで襲われたことあるの!?」
「若さって残酷だよね」
「若さで片付けられないよ!?」
あの頃は若かった。若気の至りだったんです。だからこの話は今はこれで終わり。
「それよりも、乃亜の方だ。今日のあいつ、おかしいぞ。何かあったか?」
「……お兄って大体のことに察しがいいくせに、ある一定のことだけには疎いよね」
「何それ?」
「自分で考えてみなよ」
それがわからないから苦労してんだけど……。
琴乃は深々とため息をつくと、そっと俺の頭を撫でた。
いつもなら即払い除けるが……琴乃の慈愛に満ちた表情に、なんとなくそのまま撫でられ続けた。
「ま、乃亜は大丈夫だよ」
「本当か?」
「もちもち。でも……もしあの子が勇気を出したらさ、正面からぶつかってあげてよ。乃亜は私の大切な親友だからね」
…………。
「ああ、わかった」
「にししっ。……ああ、そうだ。梨蘭たんのことも、しっかり向き合うんだよ」
「そっちは問題ない」
それに関しては即答した。
俺はあいつのことが好きだと言うのは自覚した。
名前で呼び合う仲になった。
だから、大丈夫だ。……大丈夫だと思う。
だけど琴乃は、そんな俺の回答に微妙な表情を浮かべると。
「んー……私の言いたいことが微妙に伝わってないと思うけど……ま、いいや。最後に一言だけ言うとだね」
「お、おう。ふごっ!?」
両手で思い切り頬を挟まれた……痛てぇ。
琴乃に抗議の目を向けると、有無を言わさぬ笑みに圧倒されてしまった。
「2人とも泣かせたら……お兄でも許さないぞ☆」
「……うい」
と、丁度その時チャイムが鳴った。
琴乃と話してる間に、配達イーツが来たらしい。
琴乃はさっきまでの圧を消し、「ごはーん!」と玄関に向かっていった。
……正面からぶつかる、か……。
何に対してかはわからないけど、もしそんなことがあったら……俺も向き合ってやるか。
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