第25話
◆
「……マジか……」
目の前にある綺麗な一軒家。
周囲より2回りくらい大きい家に、立派な庭。
石の表札には【久遠寺】の文字が刻まれている。
間違いなく俺が土曜日に送って来た、久遠寺の実家だ。
その家の前にいるのは、俺1人。
そう……俺1人なのだ。
ちきしょう、竜宮院のやつ。途中までは一緒だったのに……。
『あっ、ごめんなさい。今日大切な用事があるの思い出しました! それじゃ!』
それじゃ、じゃないんだよ。それじゃ、じゃ。
しかもめちゃめちゃいい笑顔だったし。殴りたい、あの笑顔。
はぁ……1人で入らなきゃならないの、これ。
女子の家なんか寧夏の家に行ったことあるくらいなんだが……しかも女子ってより、男友達って感じだし。
……でもまあ、ここまで来たら今更引き返せないか。
プリントとお見舞いの品を渡して終わり。そう終わりだ。
家の人とかいるだろうから、久遠寺と顔を合わせられないとは思うが。
深呼吸して……いざ。
ピンポーン──。
『……はーい?』
出た。けど……やっぱり久遠寺の声じゃないな。もうちょっと幼い感じだ。
「あ、すみません。久遠寺……梨蘭さんと同じクラスの真田って者です。今日風邪で休んだ梨蘭さんにプリントを──」
ガチャッ!
……え、切られた。なぜ?
と、家の中からドタドタ騒音が聞こえ……ものっすごい勢いで玄関が開かれた。
久遠寺と同じブロンドヘアーに、緋色の瞳。
髪はおしりのまで伸びてるくらい相当長いが、よく手入れされてるのか陽の光を反射して眩く輝いている。
キャミソールにホットパンツと、かなり際どい格好をしているが……如何せん体がミニマム。妹だろうか。
「君、サナダアキト君!?」
「あ、えっと……はい、真田暁斗と言います」
「アキト君! いやー、リラから君のことは聞いてるよ。あ、入って入って!」
「えっ、えっ?」
ちょ、強引だなこの子……!
腕を引かれて家へと連れられると、無理やりリビングのソファーに座らされた。
ここが、久遠寺の育った家……赤い糸は上に行ってるから、部屋で寝てるのかな。
久遠寺の妹ちゃんが、コップに麦茶を入れて俺の前に置いた。
「どうぞどうぞぉ。いやー、リラから聞いてたけど、男前だねぃ」
「ど、どうも……」
あいつ、身内に俺のこと話してんのか。
……う、嬉しくなんかないんだからねっ。
妹ちゃんは俺の隣に座り、にまにまと俺を舐めるように見てくる。
てか近くないですかね。俺にロリっ子趣味はないとは言え、こんな薄着で近寄られるとドキドキするんだけど。
「そいで? アキト君は今日はどうしたのん? リラが風邪で休んだから、寂しくて顔見に来ちゃった?」
「あ、と。久遠寺……梨蘭さんにプリントを……あと、食べると思ってゼリーも」
「ゼリー!」
おわっ、食いついてきた。
「えっと……2つあるんで、よければ」
「本当!? リラの運命の人、超いい人じゃん! いただきまーす!」
問答無用でぱくぱく食べる妹ちゃん。こう見ると、若干の琴乃感がある気がする。やはりどの家も、妹ってのはこんなものなんだろうな。
「んまーっ。いやー、将来こんな子が弟になると思うと、鼻高々だなぁ」
………………………………ん????
「弟? 誰が?」
「君が」
「誰の?」
「私の」
…………。
「もしかして……久遠寺のお姉さん?」
「いっえーす! 初めまして、リラのお姉ちゃんの迦楼羅ちゃんだよん」
マジか。
「すみません。妹かと思ってました……」
「にゃはー。こんなチンチクリン体型だからねぃ。成人してるけど、まだギリギリ子供料金でバスも乗れるぜ?」
「それは犯罪です」
「じゃー聞かなかったことにして♪」
自由人か。
改めて、隣に座る迦楼羅さんを見る。
……見れば見るほど久遠寺にそっくりだ。整った顔立ちだし、何より可愛い。
だけど性格がビックリするくらい正反対。
あのツンケンした性格の久遠寺と比べると、ものすごく人懐っこくてよく笑顔を見せる。
……久遠寺もこんな風に笑うんだろうか。
「んーっ、美味しかった。ごちそーさまでした」
「あ、はい。じゃあプリントも渡したので、俺はこれで」
「んえ? まだ渡してないでしょ」
「いや、迦楼羅さんに渡しましたよね」
「……こりゃリラが難儀するのもわかるわぁ」
え、何で呆れられてんの俺。
迦楼羅さんはやれやれと首を振ると、プリントを持って軽やかにソファーの上に立った。
「アキト君! 我が弟よ!」
「弟じゃないです」
「リラの伴侶なら、奥さんが弱ってる時に側にいてやるのは必須中の必須!」
「伴侶じゃないです」
「ごちゃごちゃうるさーーーい!」
テンション高いなこの人。
「という訳で! これからリラの部屋にレッツラゴー!」
「はいは……え?」
……………………え?
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