第229話
ちょっとホラー回
「あばばばばっ。あわわわわ……!?」
俺の腕に抱き着きながら、へっぴり腰で歩みを進める梨蘭。
まだ教室に入って数歩だぞ。しかもすっげー遅いし。
「梨蘭、ちょっとスピード上げないと後ろがつかえるぞ」
「だだだ、大丈夫っ。これは次なる犠牲者を出さないため、私が身を挺して後ろの人を守ってるの……! だから遅くてオーケー……!」
「何その自己犠牲」
とてもはた迷惑な自己犠牲である。
しかも目がガンギマリしてるぞ。暗闇でギラついてる赤い目って怖いから。
最初の教室の内観は、西洋の館を模したものだ。かなり凝ってるけど、ほとんどは張りぼてだ。それでもかなり廃れている感じが出ていて、雰囲気はある。
梨蘭のヴァンパイアコスプレが館の主感を醸し出しているけど、館の主がビビってるみたいでちょっと面白い。
けど、今の所何も起きない。ただ迷路っぽくなっている教室を歩いてるだけだ。
「ふ、ふん。何よ、何もいないじゃない。全く、拍子抜」
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッッッ!!!!
「んにゃああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」
びっくりした。音にじゃなくて、こんな古典的なものに引っかかる梨蘭にびっくりした。
「梨蘭、大丈夫か?」
「大丈夫に見える!? 大丈夫に見える!? 眼科紹介しましょうかこらぁ!」
「ごめん」
昔の梨蘭に戻ったみたいで懐かしさを感じるけど、生命の危機を感じてるのか暴言が酷い。
でも逃げ出そうとしない梨蘭。頑張ってるなぁ。
壁から出てくる無数の腕。
棺桶を模したロッカーから出てくるゾンビ。
断続的に続くラップ音。
その全てに梨蘭は引っ掛かり、全てにキャーキャー叫び声をあげていた。
そしてようやく、一つ目の教室をクリア。廊下を通り、隣の教室に向かった。
次の教室は日本の墓場を模している。すごいな、このクオリティ。これを生徒が作ってるのか。
「ぁゎぁゎぁゎぁゎぁゎぁゎぁゎぁゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎ……!?」
「パニくりすぎだ。いい加減慣れろって」
「あ、アンタにはわからないでしょうねっ。本当にホラーが嫌いなのに、慣れるもクソもないでしょうっ。ふざけんじゃないわよ……!」
「あ、はい」
俺にはわからない感覚だ。
日本の墓場っぽくその辺に火の玉が浮かんでいたり、墓からうめき声が上がったり、井戸から貞子っぽいものが這って出てきたり。
日本の雰囲気にあった仕掛けの数々に、梨蘭も大喜びである。
「どこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこがどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどどどどどどどどどどどどどどどど」
なんだろう。お化け屋敷の仕掛けより梨蘭の方が怖い。
あとナチュラルに心読むな。
梨蘭を励ましながら、各教室をクリアしていく。
順番は西洋の館、日本の墓場、外国の墓場、公園、監獄、そして廃れた病院。
無事6つの教室を巡り、一息ついた。それにしても静かだ。静かすぎる。
……ん? あれ?
「あ、暁斗? なんで立ち止まったの……?」
「なあ、梨蘭。3年の教室って6つだよな」
「そ、そのはずよ……」
「……じゃあ、この教室はなんだ?」
「え?」
6つの教室は無事クリアした。
けど、その先にあったのはゴールじゃなく、更に続く廊下と7つ目の教室だった。
「入ってみようぜ」
「なんで!? ど、どう見てもおかしいわよ! わ、私3年生の階に来たことあるけど、7つ目の教室なんてない! 6組が一番端で、その先に廊下は続いてないはずだもの!」
「でも、どう見ても続いてるぞ」
「そ、それは……」
梨蘭がうろたえる。
でも確かにおかしい。梨蘭がその辺の記憶を間違えるはずない。
それにこの教室の扉……お化け屋敷だから汚してるのかと思ったけど、それとは違う。変に汚れてるし、ちょっと古びている。
「……そうだな、入るのは止めておくか」
「そ、そうしましょうっ。は、早く行くわよ……!」
梨蘭に引っ張られ、廊下を仕切っていた垂れ幕を通る。
急に世界が明るくなり、ようやく元の校舎内の景色が戻って来た。
と、目の前には俺らに背を向けている琴乃と乃亜の姿が。
「むー、お兄達遅いなぁ」
「姐さん怖がってたからね。仕方ないよ」
「おい、俺らこっちだぞ」
「「え!?」」
振り返り、目を見開いた2人。
俺と梨蘭を交互に見て、ポカーンとしている。
「な、何よ、2人して」
「え、えっと……ど、どこから出てきたの? 私達、ずっとゴールで待ってたのに」
「どこからって、そっちから……あれ?」
俺と梨蘭が通って来た方を振り返る。
が、そこには垂れ幕も何もない。ただの突き当りの壁があるだけだった。
「そっち? そっちは何もありませんよ、センパイ」
「…………」
「……センパイ?」
乃亜の声や、喧噪がやけに遠く聞こえる。
更に気付いた。喧噪が聞こえる。
7つ目の教室の前にいた時は、喧噪なんて何も聞こえなかった。
そう、静かだった。
梨蘭も気付いたのか、顔面蒼白で顔を引きつらせている。
「な、なあ、琴乃。このゴールって、廃病院から続いてるのか……?」
「何言ってるのさ。廃病院をゴールしたら、この廊下に出るようになってたでしょ。お兄達もここにいるんだから、わかってるはずだよ」
琴乃と乃亜の表情を見るに、嘘をついてるようにも、からかってるようにも見えない。
今度は梨蘭が聞いた。
「な、7つ目の教室は? あの古い扉の……」
「教室は6つだけだったけど」
「「…………」」
この日、俺の嫌いなものにお化け屋敷が追加されたのは、言うまでもない。
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