第194話
「どもども、暁斗センパイ! こんちゃす!」
「おー、元気そうだな、乃亜」
翌日、家に乃亜がやって来た。
もう何度も家に来ているみたいで、ゲストルームの一室を使ってるみたいだ。
ゲストルームに荷物を置き、制服から私服に着替えた乃亜がリビングにやって来た。
部屋に私服まで置いてるって、もう完全に私物化してんじゃん。
梨蘭の淹れてくれた紅茶を飲み、乃亜が口を開いた。
「姐さんから聞きましたよ、センパイ。記憶を失くした半年間のことを色んな人に聞いてるって」
「ああ。悪いな、面倒なことに巻き込んじまって」
「いえいえ! 私とセンパイの仲じゃないですか!」
仲って……まあ先輩後輩というより、友達って感覚の方が近いか。
乃亜はお茶菓子のクッキーを食べつつ、「そうですね~」と首を傾げる。
「6月頃にセンパイと再会しまして」
「ふむふむ」
「で、私が告白しました」
「ほうほう。……は?」
告白……え、告白?
「誰が?」
「私が」
「誰に?」
「センパイに」
…………乃亜が俺に!?
「え、何? 乃亜、俺のこと好きだったの?」
「はい。ま、見事撃沈しましたけどね~」
ぽかーん。
まさかすぎる。もう『運命の赤い糸』が見えてるのに、そんな俺に告白って……。
「やっぱり赤い糸が見えてるのに告白は無謀でしたね~。てへ」
「てへじゃないわ」
「本当、暁斗から告白のことを聞かされたときはびっくりしたわよ……」
梨蘭がそっと嘆息する。
うん、俺もびっくりしてる。まさか赤い糸が見えてるのに、乃亜から告白されるだなんて思わないし。
「覚えてませんか?」
「ああ、全然」
「ちぇー。夜這いまでしたのに」
「よば!? ちょ、暁斗どういうこと!? 聞いてない! 私聞いてないわよ!?」
「あばばばばばばばっ、おちちちちちちつけけけけけけけけっ」
俺が聞きたいんだけどっ、俺が聞きたいんだけど!?
何、俺夜這いされたの!? 乃亜に!?
「こーんな美少女が露出度高めの寝間着で夜這いしたのに、センパイったら『俺は梨蘭が好きだ。だから、お前の気持ちには応えられない』とか言っちゃって」
「んもーっ、暁斗ったら……」
「痛い痛い痛いッ」
そんな背中叩かないで。あと俺覚えてないしっ!
「ふふ。私を振った件については、これくらいでいいで勘弁してあげます。後はそうですねぇ~」
と、誕生日や夏祭りのことを色々教えてもらった。
夏祭りで、乃亜は梨蘭のことを姐さんと呼ぶようになったらしいが……その真意までは教えてくれなかった。
まあ、お陰で今までのことがだいぶわかって来たな。
「どうです? センパイ、何か思い出しましたか?」
「いや、全く」
「即答しないでくださいよ!?」
そんなこと言われても。覚えてないもんは覚えてないから、しょうがないでしょう。
「ぶぅ。せっかく私の大切な思い出までお話したんですから、ちょっとくらい思い出してもいのに。謝ってください。謝罪を要求します」
「ご、ごめん……?」
なんで俺謝ってるんだろう。
「えっと……そ、それで、まだ乃亜は俺を好きなのか? もし好きだったら申し訳ないが……」
「確かに好きですけど、今は姐さんと2人のカップル推しなので。それに、あんなラブラブな2人を見せられたら、センパイに告白なんて考えませんよ」
ええ……そんなラブラブしてたの、俺と梨蘭って……?
隣に座る梨蘭を見ると、ぷいっとそっぽを向いた。おいやめろその反応。なんかガチっぽいだろ。
「私が知ってるセンパイはそれくらいですかねぇ。後は他の方に聞いた方がよろしいかと」
「ん、わかった。ごめんな、乃亜。突然こんなこと聞いちゃって」
「大丈夫です! また何かあったら、全然聞いてください!」
◆
夕飯をみんなで食べ終え、乃亜を玄関先まで送ってからリビングに戻って来た。
「まさか、乃亜が俺に告白してたなんてなぁ」
「私は初めて会った日から『あ、この子暁斗のこと好き』ってわかってたけどね。むしろなんでアンタ気付かなかったのよ」
「そんなこと言われても」
再会した時のことなんて覚えてないからな。
覚えてたとしても、乃亜は妹の親友で、大切な後輩って立ち位置だったし。多分そんなこと微塵も思わなかっただろうな。
中学の頃から俺を好いていたらしいけど……あれ? 俺って鈍感すぎ?
「まさかとは思うけど、乃亜ちゃんいいな、とか思ってないでしょうね」
「思ってない、思ってない。だって俺──ぁ」
「? 暁斗?」
「な、なんでもないっ。俺、風呂入ってくるな」
「あ、ちょっと……!」
急いでリビングを出て、服を閉まっているウォークインクローゼットに向かう。
やばい……俺、すげーナチュラルに梨蘭のこと、好きって言いそうになった……!
多分、記憶が無くなる前は日頃から言ってたんだろうけど……今の俺からしたら、爆弾発言以外の何物でもない。
はぁ……心臓に悪すぎる、これ。
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