第193話
◆
「勝てなかった……」
「ま、まあまあ、暁斗。そういうこともあるわよ」
飯休憩を挟みつつ20戦して、なんと全敗。
いくら寧夏が相手だからって、まさか全敗するとは……。
まあ、この半年間全くゲームできてなかったみたいだし、身体的ブランクが半年もあればこうなるかぁ。
時刻は21時過ぎ。
その後、寧夏は龍也を叩き起し、2人は帰って行った。
龍也のやつ、相当眠いみたいで、こんな時間まで爆睡してたのにまだフラフラしてたな。無事帰れるだろうか。
リビングで梨蘭とまったりしていると、不意に梨蘭が笑いだした。
「なんだよ」
「ううん。……暁斗、楽しそうだったなって」
「……ああ、楽しかった。最近はずっとやることもなかったから」
久々にこんなに笑った気がするし、こんなに遊んだ気がする。
……正直に言うと、梨蘭と一緒にいてもどうも距離感が掴みづらいというか、どんなことをしたらいいのかわからない。
でもこうして傍にいてくれるだけで安心するというか、気持ちが楽になる。
俺、梨蘭と一緒にいる時ってどんなことをしてんたんだろう。
と、急に梨蘭がむむむっと眉間にしわを寄せた。
「なんか悔しい」
「え、何が?」
「私じゃ、暁斗をあんなに笑わせられないから……」
今度はしゅんとなった。
よくよく考えてみると、確かに梨蘭と一緒にいる時ってあんなに笑ってない気がする。
でもさっきも言ったけど、梨蘭と一緒にいる時は安心するんだ、俺。
いままではいがみ合っていただけなのに。
まあ、付き合い始めてもう3ヶ月になるらしいし、記憶がなくても脳や体は安らぎを覚えてるんだろうな。
でも梨蘭は俺と寧夏の関係が羨ましいらしく、むすーっとした顔を見せた。
「私だって、暁斗を楽しませたいのに。ずるい」
「いやいや。もし梨蘭と一緒にいる時もあんなに笑ってたら、むしろ気が休まらないと思うぞ」
「でもぉ、だってぇ……」
今度は涙目で唸る。
えぇ……梨蘭可愛すぎ。こんな可愛いのかよ、こいつ。
「……梨蘭、俺のこと好きすぎか」
「ぶっ! い、いきなり何言い出すのよ!?」
「いや、だってねぇ……」
俺を前にすると緊張しちゃうとか。
俺のために何かしたいとか。
俺を楽しませたいとか。
どう考えても俺のこと好きすぎでしょ。
「う、ぐぬぬ……! え、ええそうよ。好きよ、大好きよ! 悪い!?」
「いや、悪いとは一言も言ってない」
「ふん! 今に見てなさい。私がどれだけ暁斗のことを好きか、思い知らせてやるんだから」
ぷい。あ、そっぽ向いた。
いやまあ、こんなに好き好き言ってくれるのはありがたいし、嬉しいけど……ものすごーく恥ずかしいというか、いたたまれないというか。
妙な気恥ずかしさを覚えて黙ってると、梨蘭も顔を真っ赤にしてしまった。
「あー、えっと……そ、そういうこと、だから」
「お、おう……」
「「…………」」
互いに無言になる。
いや、だって……ねえ? あんなこと言われたら、そりゃあ恥ずかしくて何も言えなくなるって。
えっと、話題、話題……あ。
「そ、そうだ。明日は誰を連れてくるんだ?」
「え? あー、そうねぇ……乃亜ちゃんなんてどうかしら」
「ん、わかった。……入院してる時も思ったけど、2人って仲良かったんだな」
乃亜なんて、梨蘭のことを姐さんって呼んでるくらいだし。
それもこの半年で起こった変化のひとつなんだろう。
「色々あってそう呼ばれるようになったのよ。……ホント、あの子とも色々あったわ」
そ、そんな遠い目をするくらい色々あったのか……?
乃亜のやつ、一体何をしでかしたんだよ。
「ま、まあ、それは明日のお楽しみね。今日はもうお風呂入って休みましょう」
「だな。先入って来いよ。俺は次でいいから」
「ええ、ありが……ふむ……」
「……梨蘭?」
立ち上がり、急に動かなくなった梨蘭。
神妙な顔つきで、何か考えているみたいだ。
「あ、あー、疲れたわ。本当、今日は疲れたわぁ」
「え。何、その露骨なアピール」
「そういえばすごーく疲れてる日は、いつも暁斗と一緒にお風呂入ってたのよね」
ちら、ちら、ちら。めっちゃチラ見してくるじゃん。
そっかぁ、一緒に風呂に…………? …………??????
「は? 風呂?」
「え、ええ、そうよ。疲れを癒すために、一緒にお風呂入ってたわ」
いやめっちゃ目が泳いでるぞ。
「……だめ……?」
「ダメ、というか……ま、まさか俺らって、もうそういうことしてたりする、のか……?」
「し、してないわよっ。まだお互いクリーンな体よ!」
「疲れてる時に一緒に風呂に入ってるのにお互いクリーンな体って、それはそれで不健全なのでは?」
これがもう致してる男女なら普通だろう。
でも致してないのに一緒に風呂に入って、そういうことが起きないって、むしろダメだと思う。
そのことを指摘すると、梨蘭は顔を引きつらせた。
「1人で入って来なさい」
「う……はーい」
あからさまに落ち込んで、梨蘭はリビングを出て行った。
全く、油断も隙もあったもんじゃないな。
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