第190話
【作者からのお願い】
俺の『運命の赤い糸』に繋がってたのは、天敵のような女子だった件
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◆
「……でっか」
翌日、梨蘭と一緒に新居に来てみたが……何このでかさ。広さ。
こんな場所に住んでるのか、俺たち。
話には聞いてたけど、にわかには信じられん……。
「ほら暁斗、入るわよ」
「お、おう」
梨蘭の後に着いていく。
門扉を生体認証で開け、広々とした庭を横切る。
広い。広すぎる。わらしべ長者でももう少し自重するだろ。
余りの広さに脳がついて行かない。
ここに来たら何か思い出す切っ掛けになると思ったんだけど……逆に引いてしまった。
家の扉も、生体認証で開く。
防犯カメラまで付いてるし、セキュリティは万全みたいだな。
先に家に入った梨蘭はくるっと周り、「んっ」と両腕を突き出してきた。
「……何?」
「んっ!」
「いや、んって」
そんなことされてもわからないんだけど。
「あ、あー、そうだった。暁斗記憶が飛んでるから、わからないわよね。あ、暁斗、帰ってきたら私にギューッてするのが日課だったのよ」
「……はい?」
ぎゅー……って、まさかハグのことか?
え、嘘。俺と梨蘭って、家に帰ってきたらそんなことしてたの?
梨蘭の目をじっと見つめる。
「…………(ぷい)」
おい、目を逸らしてんじゃねーか。
「本当か? 本当に俺、帰ってきたらお前とギューッてしてたのか?」
「ほ、本当よ。ワタシ、ウソ、ツカナイ」
めちゃめちゃカタコトなんだけど。
それに目を合わせようともしないし。
「……ほんとだもん……」
「はぁ……まあ、そこまで言うなら……わかった」
「! ふふ。最初から素直に頷けばいいのよっ。ほらっ、来なさい!」
満面の笑みでハグ待ちをする梨蘭。
正直、ものすごくやりづらい。
あの俺を目の敵にしていた梨蘭が、こんな期待した顔でハグ待ちをする……しかも相手が俺って、意味がわからない。
でも、このまま「やっぱやらない」って言ったら、梨蘭ブチギレるだろうなぁ……仕方ないか。
緊張しながらも、ゆっくり梨蘭に近づく。
梨蘭も緊張した面持ちで俺を受け入れ、そして。
ギュッ──。
ッ!? こ、これは……!
みぞおち辺りで形を変える柔らかなブツ。
胸板に擦り寄ってくる頬。
柑橘系の香りと梨蘭自身の香りが混じったフェロモンのような匂い。
俺にハグされて嬉しいのか、ずっとニコニコとしている。
こ、こんなこと毎日やってたのかっ、俺たちは……!
え、本当? 本当にこんなことやってたの? 俺記憶ないんだけど。あ、リアルに記憶ないわ……!
「も、もういいだろっ」
「もうちょっと」
「でもこれじゃあ家に上がれないし……」
「いつもは2時間ギューッてしてたわ」
「それは嘘だろ」
記憶なくてもそれが嘘だってことはわかるわ。
梨蘭は不満そうに「仕方ないわねぇ」と言うと、ようやく離れてくれた。
あぁ、よかった……このままずっとくっ付いてたら、いたたまれなすぎて狂いそうだった。
靴を脱いで家に上がる。
それにしても、玄関でさえこの広さ。こりゃあ探索するのも時間が掛かるな。
「じゃ、手洗いうがいしてリビングに行きましょう。こっちよ」
「お、おう」
広すぎる洗面所に向かい、手洗いうがいを済ませた。
そして広すぎるリビング。こんな広いリビングがあっていいのかと思えるくらい広い。
てか俺、ここに来てでかいと広いしか言ってない。
でもわかってくれ、俺の気持ち。
「はい、暁斗。コーヒーよ」
「あ、ありがとう」
あ、この香り。俺の好きなメーカーのコーヒーだ。
「どう? 何か思い出せそう?」
「いや……悪いな」
「気にしないで。私も支えるし、ゆっくりでいいから」
……梨蘭って、こんなにいい奴だったんだな。
「あのツンツンしていた梨蘭はなんだったんだ……」
「あ、あれは、その……アンタの前だと緊張しちゃって素直になれなかったというか……」
「そうなの?」
梨蘭、俺のこと好きすぎ問題。
いや問題はないけど。むしろ真相を聞けて嬉しい。
そうかぁ。俺を好きすぎて、俺を前にすると素直になれなかったのかぁ。
…………。
何小っ恥ずかしいこと言ってんだこいつ!?
羞恥で顔が熱くなる。
梨蘭も俺の羞恥を感じたのか、頬を赤らめて俯いた。
「な、何よ、悪い?」
「悪くはない、けど……」
「「…………」」
あっ、ダメ。妙な気恥しさで梨蘭の顔をまともに見れない。
俺、こんな状態でよく梨蘭と同棲できてたなっ。すごいわ、素直に感心する……!
記憶がないままでの同棲生活……これから一体、どうなるんだ。
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