第178話
「暁斗、見てた!? 私、ゴールしたわ!」
戻ってきた梨蘭は、キラキラ輝く満面の笑みだった。
まるで褒められたがりのワンコみたい。可愛い。
「おう、頑張ったな」
「頑張ったわ! 運動会や体育祭で、生まれて初めてゴールしたの! これも全部、暁斗が応援してくれたおかげね!」
「そうかそうか。初めて……え、初めて?」
生まれて初めてゴールって、どういうこと? そんなことありえるのか?
「私、ゴールできなさすぎていつも途中リタイアさせられてたから……」
そんなことありえるのか!?
梨蘭の運動神経の悪さは知ってたけど、ここまで酷かったとは……。
「というか暁斗、なんで知らないのよ。中学一緒だったじゃない」
「俺がまともに参加してるとでも?」
「聞いた私が馬鹿だったわ……」
頭を抑えて嘆息する梨蘭。
まあ個人種目にはほとんど出ないで、団体競技も手を抜いてたからなぁ。
こういう奴、俺以外にもいるはずだ。……多分。
「とにかくっ、人生初のゴールを祝って! 私を持ち上げて! 奉って!」
「お前それ意味わかって言ってる?」
「今の私はそれくらいテンションが高いの! バリダカよ!」
「バリカタみたいに言うな」
でもまあ、こんなにテンションの上がってる梨蘭は初めて見る。
お祝いかぁ……。
「じゃ、今度何かご褒美やるよ」
「ほんと!?」
「おう。とびきり喜ぶもんだ」
「ええ〜? そんなハードル上げちゃっていいの? むふふ、なら楽しみにしてるわ!」
まだテンションが高いのか、梨蘭は大きく手を振って赤組に戻っていった。
「いやはや、あれがあの久遠寺だって、同中の奴らに見せてやりたいぜ。な、暁斗?」
「爆死しろ」
「それ俺の台詞ゥ! しかも古いぞ暁斗!」
チッ。龍也がいたのすっかり忘れてた。
さっきからニヤニヤしてきやがるし……おん、やんのかテメェ。
「だってよ、あんなに輝かんばかりの笑顔を暁斗に見せるなんて、他校に行った同中の奴は想像すらしてないと思うぜ?」
「……まあ、そうかもな」
確かにあんな笑顔、中学の頃では考えられなかった。
学校でもまだ気恥しさがあったけど、さっきの成功体験で吹っ切れたみたいだ。
「これからは暁斗たちのイチャイチャを学校でも見れるのか。いやぁ感慨深い」
「そんな訳ねーだろ。あの梨蘭だぞ」
「いや、俺の見立てでは、あいつは吹っ切れた瞬間に見境がなくなる」
んな馬鹿な。
龍也より俺の方が梨蘭のことは知っている。
そんなことをする奴じゃない。……はずだ。え、そうだよね?
「学校内での不純異性交友など以ての外だぁ!」
「「ギャアーーーーーー!?!?」」
えっ、うわっ、薬師寺先輩!? マジでビビった……いつの間に後ろに。
「真田君、公私混同は頂けんな。ダメだぞ、学校は学ぶ場所だ」
「俺はそんなことしませんって」
「どっかの馬鹿はやったようだがな」
…………。
「龍也、見損なった」
「違うんだって! キスしただけだから! 断じてそれ以上はしてないから! それをたまたまかいちょーに見つかっちまっただけで……」
やれやれ、こいつは猿か……。
「でも薬師寺先輩。龍也を擁護する訳じゃありませんが、俺らは赤い糸で結ばれているので、不純ではありませんよ」
「そ、そうっすよ! 俺らは健全です!」
「健全も何も、君らそれが行き過ぎて子ができたらどうするつもりだ?」
ズボシッ。
「常識的に考えて、16歳かそこらで子供なんてできてみろ。世間は君らをどう見る」
ズボボシッ。
「いくらお互いがよく、ご両親の理解を得られていようと、君らにできることは限られている。将来のことをしっかり考えてほしい。銀杏高校生として」
「「う、うす……」」
ド正論すぎてなんも言えん。
「うむ! すまないな、楽しい日に説教臭いことをしてしまって。では、勝ちに行こう! えいえいおー!」
「「お、おー……」」
「声が小さいぞ! えいえいおー!」
「「え、えいえいおー!」」
「何あれ、楽しそう!」
「うちらもやろ!」
「えいえいおー!」
俺らのやり取りを遠巻きに見ていた青組の人達も、パラパラと声を出した。
「その調子だ! 青組全員、声出していこー! えいえいおー!」
「「「「えい!! えい!! おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」」
あー……なんというか。
「変な人だな」
「やっと気付いたか」
「でもそれ以上に、すげー人だ」
「それもやっと気付いたか」
こんなに変で、こんなにすごい人が2年生にいたのか。
「それじゃあ青組! 全勝優勝を目指して突き進めー!」
「会長、そりゃあ無理だ!」
「む? そうか?」
ドッ──!!
会長の天然なのか狙ったのかわからないが、青組が笑いに包まれた。
……やっぱ変な人だ。
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