第169話
「ああいう経緯があるなら、仕方ないわねぇ」
「さすがにあんな事情を説明されたらなぁ」
今日一日の予定が全て終わり、家で夕飯を食いながら昼間のことを話していた。
梨蘭も納得してるらしい。今はイライラせず落ち着いている。
まあ納得せざるを得ないというか、なんというか。
「ま、理由もハッキリしたし、これで思う存分楽しめるわね。負けないわよ?」
「おう。俺の方こそ負けねーぞ」
不敵な笑みを浮かべる梨蘭に、俺も笑みを返す。
……あ、そうだ。
「どうせなら、ペナルティ付けないか?」
「ペナルティ?」
「負けた方が勝った方の言うことを何でも一つだけ聞く、とか」
「エッチ、すけべ」
「俺何も言ってないよね。その発想をする君の方がエッチですけべだよね」
自分の身を抱くようにして、ジト目を向けてくる。
なんで俺が加害者っぽくなってるのん?
「でもそうね。勝負なんだし、そういうのがあってもいいかも……ええ、いいわよ」
「そう来なくちゃ」
「ふふん。二週間後には満漢全席ね♪」
「おい待て、何を頼む気だ」
こいつマジで頼むわけないよな? え、そうだよな?
梨蘭のことだから、本気で頼みそうで怖い。俺の金が……!
「やーねー。冗談よ、冗談」
「マジでやめて、破産しちゃう」
「だから冗談だって言ってるでしょっ。もう!」
ぷいっ。そっぽを向かれてしまった。ごめんごめん。
それにしてもペナルティか。自分で言ってて迷うなぁ。
うーむ……。
「そんなに悩まなくても……因みに私はもう決めたわ」
「え、はや。どんなことにしたんだ?」
「教えないわよ。覚悟してなさい」
覚悟が問われることを要求されるの!?
梨蘭は楽しみなのか、鼻歌を歌いつつハンバーグを食べる。
いや、勝負と言ってもチーム戦だから、勝敗はチームに依存するんだが……ま、いいや。
「あ、そうだ。琴乃と乃亜から、早く家に呼べって連絡が来てたんだった」
「ふふ、いいわよ。琴乃ちゃんも乃亜ちゃんも、暁斗がいなくて寂しがってるだろうし」
「悪いな。次の休みとかでいいか?」
「ええ。お夕飯考えないと……どうせ泊まるって言って聞かないから、あの2人」
さすが、2人のことをよくわかってる。
受験生で時間もないだろうけど、たまには息抜きもしないとな。
最近は勉強も頑張ってるみたいだし。
龍也と寧夏からも催促されてるけど、あっちは後回し。
今は可愛い妹と可愛い後輩が先です。
「じゃ、次の休みの日は頼むな」
「わかったわ。琴乃ちゃんと乃亜ちゃん、夏祭りぶりだから、楽しみねぇ〜」
親戚のおばちゃんか、お前は。
◆
そして土曜日。
一時的に家に帰ると、既にリビングには琴乃と乃亜が待っていた。
「お兄っ、おかえり!」
「センパイ、待ってましたぁ!」
「おー、2人とも準備できてるか?」
「「もち!」」
それぞれスーツケースとボストンバッグを持っている2人。
いや、2人して荷物多すぎないか? 何泊するつもりだよ……。
「もちろん、いつでもお泊まりできるようにっ」
「荷物を置かせてください、セーンパイ♪」
あぁ、そういうことね。
「いいぞ。どうせ部屋は有り余ってるし」
「……前から聞いてはいたけど、部屋が有り余るくらい広い家ってなんなの?」
「と言われても」
実際見てもらった方が早いか。
という訳で、2人を連れて移動。
因みに荷物は俺持ち。解せぬ。
駅を挟んで反対側の高級住宅街へ。俺は慣れた道だけど琴乃も乃亜も珍しいみたいで、あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロしている。
「おお〜。噂には聞いてたけど、本当にでっかい家ばかりですね、センパイ」
「そうだな。俺も最初は全然慣れなかった」
今では普通の光景だけど。
高級住宅街を歩くことしばし。十字路を曲がった先に、俺らの家が見えてきた。
「ほら、あれだ」
「……でっか……」
「お兄、あれデカすぎない……?」
「だから言ったろ、デカいって」
生体認証で門扉を開け、2人を中に招く。
そこでも2人は庭を見渡して呆然としていた。
「こんな所に2人暮らし……」
「勝ち組じゃないですか……」
「完全に赤い糸のおかげだけどな」
赤い糸がなかったらこんな世界とは縁もゆかりもないからな、俺なんて。
「ねえ琴乃。私達も、将来こんな家に住めるのかな?」
「どーだろ。これ、かなり特殊なパターンだと思うけど」
「あ、確かに。パパ達も赤い糸で結ばれてるけど、家は普通だ」
俺らの場合は濃緋色の糸だからなぁ。
赤い糸の歴史を見ても、まだ数人しか確認されていない奇跡中の奇跡の色。
全く参考にならない。自分でもそう思う。
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