第149話
紅茶を一口飲んで落ち着く。
梨蘭は妄想の世界にトリップしてるし、諏訪部さんも微笑ましいものを見る目で俺らを見ている。
「あー……諏訪部さんには悪いけど、その話お断りさせてくれ」
「「なんで(ですか)!?」」
梨蘭、本来ならお前もお断りする立場なんだが。
まあ、梨蘭がテンパるとこうなることは知ってたし、今更止めることもないが。
「よくよく考えてみろ。俺と梨蘭はまだ16歳、高校一年生だ。そんな2人が同じ屋根の下で生活するって、論外だろう」
「ふっふーん! そのような反論、とっくにお見通しです! やはり私は名探偵の素質があるようですねぇ!」
ドヤ顔やめろ。腹立つ。
諏訪部さんはどこからか取り出したタブレットの画面を付け、俺らに向けてきた。
「それでは、こちらをご覧ください」
「……何これ?」
「全世界で運命の人と出会った時、どのタイミングで同棲を始めたかを年代別にグラフにまとめたものです。このグラフを見ると、20代前半が全体の70パーセントで多く見えるでしょう。しかし、全体の10パーセントは10代で同棲を始めているのです。これは決して少ない数字ではありません」
こんな資料まで用意してるなんて……どんだけガチなんだ、諏訪部さん。
「更に、同棲を初めてから幸せかどうか、という質問に対しては99.9パーセントの人が『イエス』と答えています」
「そりゃあ、『運命の赤い糸』で繋がっている人同士が同棲するんだ。幸せなのは間違いないよな」
「そうですね。そしてもう一つ、後悔していることはないかという質問をした結果、歳が上がれば上がるほど、『もっと早く同棲すればよかった』という答えが返ってきているのです!」
世界中から集めたデータなのだろう。円グラフや折れ線グラフなんかを駆使し、めっちゃ力説してきた。
確かに言っていることはごもっともだ。というか、ド正論すぎて反論できない。梨蘭も鼻息荒く頷いてるし。
「更に!」
「まだあるのか」
「当然です! これは諏訪部家が恩人に恩を返せるかどうかのプレゼン、いわば諏訪部家のプライドと有能さを賭けた決戦の場! 力が入るというものですよ!!」
「わ、わかった。わかったから前のめりになるな」
ゆったりとした胸元から色んなものがまろび出そうだから。
梨蘭という最高の運命の人がいる俺でも、万乳引力の前では抗うのは難しいからっ。
「暁斗、今……」
「誤解だ。俺は何も見ていない」
「まだ何も言ってないけど」
「おのれ誘導尋問かッ……!」
「自爆しただけじゃない」
ジトー。いや、ごめんて……。
「こほん。それでは続けます。実はある方々とコンタクトを取りまして、高校一年生にして同棲を始めたカップルへインタビューをしてきました。それがこちらです」
動画再生ポチ。
と、次の瞬間、なんか壮大な音声と共に画面が明るくなり、2人の男女が現れ……って。
「あ、倉敷と寧夏」
「あいつら、諏訪部さんにバレたのか」
「不動産屋さんのコネを使い、思いの外簡単に情報を集められました」
会社の力を使うとか、いよいよ諏訪部さんのガチ度が伝わってくるな。
そのまま映像を眺めていると、中から諏訪部さんの声が聞こえてきた。多分、撮影者が諏訪部さんなんだろう。
『今日はインタビューに答えていただき、ありがとうございます』
『唐突に訪ねてきた上に俺らが同棲してることを世間にばらされたくなければ質問に答えろって脅してきたの、委員長ちゃんだよな』
「ストップ」
動画をタップして停止し、諏訪部さんを見る。
おいコラ顔背けんな、こっち見ろ。
「諏訪部さん、あんた……」
「ちちち、違いますー。脅しじゃないですー。ひゅひゅひゅ~」
口笛下手か。
この人、目的のためなら手段を選ばないやべー人じゃん……。
「さ、さあ、続きを見ましょう。ポチッとな」
再度再生ボタンをタップ。当然映像の中の諏訪部さんも何やら言い訳していたが、それは割愛。
『こほん。それでは……お2人にお聞きします。この夏から同棲を始めたようですが、今お2人は幸せですか?』
『へいへいへーい! 委員長ちゃん、そいつは愚問だ!』
『ウチら幸せいっぱいさ! 毎日幸福度マックスな生活だぜぃ!』
龍也も、龍也の膝に座っている寧夏も、幸せいっぱいって感じの笑顔だ。
こいつらのこんな顔、本当に初めて見たかも。
『そんな赤い糸が見えてから早くに同棲を経験したお2人ですが、もし同じ境遇の人がいたらどうアドバイスしますか?』
『暁斗達のことか?』
『それともリオとリーザのことかい?』
『そこは黙秘させていただきます』
こんな質問をしてる時点で、黙秘もクソもないと思うが。
だが龍也は真面目に答えを考えてるみたいで、腕を組んで思案する。
『うーん……正直な話をすると、年齢なんて関係ない。さっさと同棲しろって思う』
『その心は?』
『時間は有限だからだ』
……時間は、有限? どういうことだ?
『人は、時間は無限にあると思って生きている節がある。けどそんな訳はない。今の年齢が一番若く、過去に戻ることはできない。善人でも悪人でも、みんな平等に時間は流れていく。つまり、寿命が来て死ぬ。これは万国共通、変わらない』
龍也のその言葉に、隣に座っていた梨蘭が俺の手を握って来た。
僅かに手が震えている。今梨蘭は明確に、時間と死について認識したんだろう。
俺もここまで考えたことはなかったけど……改めて言われると、身が引き締まるな。
『前に一度調べたんだが、人間は約3万日生きることができるらしい。で、16歳の俺らが生きた日数を計算すると、約6千日。今まで生きてきた分の5倍の時間が過ぎただけで、俺らは死ぬんだ』
3万日……そのうちの既に6千日も経過してるのか……。
『それに、俺らも無敵じゃない。事故や病気で、明日死ぬかもしれない。ならさっさと同棲して、少しでも大切な人と側にいたい。そうだろう?』
と、龍也の目が真っ直ぐ俺を見た。……気がした。
『おい、これを聞いてるお前。人生で一番若いのは今だ。過去には戻れない。なら過去を振り返らず、後悔しないよう生きろ。今を精一杯生きろ。……以上!』
後悔しないように……精一杯、生きる。
はは、まさか龍也の言葉に、こんなに心を揺さぶられる日が来るなんてな。
『リューヤ、かっけーけどはっずー。うひー、全身かゆいーっ』
『へいへいへーい! 俺はいつでもかっけーっしょ!』
わいわい、わちゃわちゃ。そんな映像を最後に、動画は終わった。
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