第12話
17時。日が傾き、俺達はようやくショッピングモールを後にした。
夕日が差し込む中、久遠寺は満足気な顔でググーっと伸びをする。
その拍子に綺麗な腹筋とヘソが見えたけどとても眼福ですありがとうございます。
「んーーーっぷはっ。……悪かったわね、今日は」
「……気にしてないって言ったら嘘になるが、いずれ言わなきゃとは思ってたさ」
これから3年間、一緒の学び舎で生活するんだ。いつまでも隠し通せるものでもないしな。
「それにお前の言いたいことも、気持ちもわかるつもりだ」
「え……本当……?」
「ああ。なんてったって、俺達は赤い糸で結ばれてるんだぞ? そりゃあ気持ちくらい察するぞ」
と、急に久遠寺は顔を朱色に染めた。多分、夕日のせいじゃない……と思う。
「そ、それって……その……私とずっと一緒に──」
「この先ずっと一緒ってのは無理だよなぁ。お前だって、俺とずっと一緒ってのは嫌でしょ」
「…………………………………………は?」
冷静に考えてみると、何かある度に牙を剥くこいつと一緒にいるのは無理がある。
あの時言ってた言葉も、大方テンパった末に出てきたものだろう。
だって、こいつは俺を嫌いで、俺はこいつを天敵として見てるんだから。
じゃないと、普段から噛み付いてくるはずないよな?
「いくら『運命の赤い糸』で結ばれてるからって、お前が俺に対する気持ちを急に変えるのも難しいだろ。ここは大人しく、いつも通りの日常を送ろうぜ」
…………。
ん? 反応がないな。
「久遠寺?」
「…………」
え、何で無言で俯いてんの……?
ちょ、え? 怖いよ?
ちょっと心配になり顔を覗き込むと。
「ガルルルルルルルルッ──!」
「なにごと!?」
まさかの超絶不機嫌だった……!
さっきまでご機嫌だったのに、何がどうしてこうなった!?
潤んだ緋色の瞳をこれでもかってくらい吊り上げ、まるで猛獣のように唸る久遠寺。
その姿はまるで狂犬の如く。
「あ、あ、アンタぁ……!」
「えっと……俺何かやっちゃいました?」
ブチッ──。
え、何今の。何かが切れた音が。
「アンタなんかあぁ……! 大ッッッ嫌いよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
あ……行っちまった。
いや、まあ……知ってるけど。
◆梨蘭◆
バカ! バカバカバカ!
真田のばーかばーか!
何さ! 何さ! 何さ!
確かにいきなり態度変えるのは周りにも変に思われるしっ、アイツの言うこともちょっとはわかるけど!
だからって……だからって!
「あああああっ! むかちゅくうううううう!!」
そりゃあ私の今までの態度が悪かったわよ! 私がアイツのこと嫌いって認識を植え付けたのは私ですし、ちょっとは反省してるし!
そして何より!
「……嫌いだなんて言っちゃった……ううううう!」
私のバカぁ……!
家のソファーでじたばたじたばた!
その時、リビングの扉が開いて迦楼羅お姉ちゃんが入って来た。
私と同じブロンドヘアーに緋色の瞳。
だけど私より背が低く、髪の毛もおしりの下まで伸びている。
そして気だるそうな目付きと発達してない体付き。
一緒に歩くと私の方が姉に間違われるほどの幼女体型。
これでも成人した大学生だ。
「おー? リラ、今日はいつに荒れてるねぇ」
「カルお姉ちゃん……うぅ、お姉ちゃ〜ん……」
「よしよーし。体はどエロいのに泣き虫なのは変わらんねぇ」
うぅ。お姉ちゃんに頭撫でられるの安心する……。
「ガッコで何かあったかぃ?」
「それが……」
「愛しのアキト君かな?」
「はにゃ!?」
にゃにゃにゃ! にゃぜそれを!
「だってリラ、夜な夜な叫んでるもんなぁ」
「ぐぅ……!」
なんということ……! まさかバレてたなんて!
「それで、どしたー?」
「……えっとね」
話した。話してしまった。
でも、昔からカルお姉ちゃんには隠し事はできない。信頼というか、どうしても甘えてしまう。
私の話を黙って最後まで聞いたカルお姉ちゃんは、優しく私の意図を汲み取ってくれた。
「ほっかほっか、なるほどねぃ。つまりリラは、運命の人であるアキト君と仲良くしたいわけだ」
「うん……でも、大嫌いだなんて言っちゃった……」
嫌いじゃないのに……好きなのに……。
どうしてアイツの前だと素直になれないんだろ……。
「そもそも何で喧嘩しちゃったのん?」
「う……私が真田に、ずっと私のこと見てなさいみたいなこと言っちゃって……」
「ふむふむ」
「真田がそれを冗談というか……本心じゃない、みたいに受け取っちゃったらしくて……」
「あー、普段のリラからは到底出ないような言葉に、アキト君も変な風に捉えちゃったかぁ」
そう、そうなの。
一生私だけ見てればいいだなんて、普段の私からしたら絶対に出てこないような言葉だ。
しかも相手は、好きで好きで好きで堪らなくて、運命の人である真田暁斗。
穴があったら入りたい勢いの爆弾発言だ。
「そうさなぁ……それが本当なら、リラとアキト君の溝は相当深いかもねぇ」
「ですよねぇ……」
「なら、それを埋めてみてはどうかい?」
「埋める……? どうやって……?」
カルお姉ちゃんは口を『ω』風にすると。
「親睦を深めるために、デートに行くんだよっ」
とんでもないこと言った!
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