第131話
袖を下し、下駄を履きなおすと、周囲から拍手と歓声が上がった。
「よっ! 兄ちゃんやるねぇ!」
「おにーちゃんかっこいー!」
「あの人、よく見るとイケメンじゃない?」
「思ったー」
「根性ある若者だねぇ、おばあさん」
「そうですねぇ、おじいさん」
う……は、恥ずかしいな。注目されることに慣れてないから。
周りにぺこぺこと頭を下げ、みんなの所に戻っていった。
「悪い、待たせた。怖がらせちゃったな」
「だ、大丈夫よ。……ありがとう。かっこよかったわ」
「そ、そ、そうですっ。センパイのかっこいいところ見られて、感激です!」
そんな絶賛されるようなことしてないけど……褒められると、嬉しいな。
「やるね、お兄。大切な人だなんてあんなはっきり言うなんて。梨蘭たんと乃亜、メロメロだよ」
「ん? 琴乃もその1人だけど」
「…………そ、そぅ……」
あれ、なんか間違えた? そんな顔を逸らされることはしてないと思うけど。
……ま、いいや。それより。
梨蘭と乃亜の浴衣姿を見る。
まず乃亜。
白色を基調にした浴衣で、柄は赤やピンクのアサガオが描かれている。
帯は黄色く、これにはうっすらと螺旋が描かれていた。
髪はサイドテールで結ばれ、そこにガラスで作られたアサガオのかんざしが刺さっている。
次に梨蘭。
黒色を基調にし、柄は薄紫の百合の花。
帯は白と紫のグラデーションで、うっすらと小さい花が刺繍されている。
髪は短いからかんざしは付けていないが、いつも通り赤いアネモネのイヤリングを付けていた。
「梨蘭、乃亜。似合ってる、可愛いぞ」
「あ、あり、がとう……」
「です……」
さすがにストレートに褒めすぎた、か?
でも……梨蘭も、琴乃も、乃亜も、とんでもなく似合っている。
確かにこれは、声を掛けたくなる気持ちもわからなくない。余りに可愛すぎる。
こんな3人と一緒に夏祭りを回るのか……。
去年までは琴乃と乃亜だけで、しかも本当にお守のようなものだった。
けど、今回は全然違う。
恋人の梨蘭もいるし、乃亜の気持ちも知ってしまった。
だからちょっと気まずいというか、緊張してしまう。
「そ、そろそろ移動するか。腹減ったろ? まずは飯にしようぜ」
「はいはーい! 私、たこ焼き食べたいでーす! 暁斗センパイ、ゴチでーす!」
「お兄、私はから揚げー!」
「ナチュラルにたかるな」
まあ、毎年のことだからいいけど。
「梨蘭はどうする? 親父から金をふんだくって来たから、ある程度は買ってやれるけど」
「そ、そんな。悪いわよ」
「気にすんな。父さん、琴乃と乃亜を溺愛しすぎて、必要以上に金を寄越したから」
「……じゃ、じゃあ、わたあめで……」
「はいよ」
ちょっと意外だ。梨蘭もわたあめとか食べるんだな。
そんなことを考えながら神社の階段を上り、神社の境内に向かっていく。
上る人も下りる人も、かなりの人数だ。こりゃ、はぐれないようにしないとな。
チラッと後ろを振り返る。
と、梨蘭と乃亜が何やら小声で話をしていた。喧嘩か? でもそんな感じには見えないが……。
「梨蘭先輩、わざとですか? わざとわたあめなんて言ったんですか? あざとすぎませんか?」
「何言ってるのよ……私、ここに来たら最初にわたあめを食べるって決めてるの。大きくてふわふわで、美味しいのよ?」
「それがあざといって言ってるんですよ……!」
「なんで私、わたあめで怒られてるの……?」
うーん。仲裁に入った方がいいか……?
「お兄、気にしなくていいよ。あれは2人なりのコミュニケーションだから」
「そ、そうか?」
「うん。……あっ、から揚げのお店!」
走るなよー。
琴乃の後を追いかけてから揚げの屋台に向かう。
から揚げを揚げていく音。きつね色にこんがり揚がったころも。にんにくを使ってるのか、食欲をそそる香り。
聴覚、視覚、嗅覚が食わせろと訴えてくるようだ。
「おじちゃん! から揚げ5個入りくださいな! タルタルトッピングで!」
「はいよ! お。お嬢ちゃん可愛いねぇ。1つおまけでワンコイン500円だ!」
「ほんとー!? おじちゃんかっこいー!」
「くぅ! 嬉しいこと言ってくれるね! よし、サービスでもう1個だ!」
から揚げ5個、タルタルトッピングで500円でも良心的なのに、2個もおまけしてくれるなんてな。
財布から500円渡すと、紙のパックに入れられたから揚げを受け取った。
「ほらよ、琴乃。熱いからゆっくり食うんだぞ」
「あーい! ……計画通り」
そのあくどい笑みは止めなさい。
てか、やっぱりわかってて言ってたか。人の心をもてあそぶ悪女め。お兄ちゃん、あなたの将来が心配よ。
琴乃はうまそうにから揚げを頬張る。
すげーいい匂い。腹減って来たな……。
買ってくるかどうするか迷っていると、顔の前にずいっとから揚げを突き付けられた。
「はい、お兄。奢ってもらったし、ひとついいよ」
「お、サンキュー。もぐ」
お……おおっ。これは確かに美味い。
から揚げもしっかりと味付けされてるし、揚げ加減も絶妙だ。
さらにタルタルソースがいいアクセントになっている。
なるほど、これは美味い。
「! せ、センパイ! 私もお腹空いちゃったので、はやく行きましょう!」
「そ、そうね。私も早くわたあめが食べたいわ」
あ、しまった。待たせちゃったか。
「悪い。じゃ、行こうか」
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