第125話
◆
1時間後。やっぱりそう簡単に見つかるはずもなく。
梨蘭達が風呂から上がって来たことを教えてくれた龍也と共に、広々とした半露天風呂に浸かって疲れを癒していた。
龍也も疲れ切っていたのか、風呂に浸かって溶けている。
「んあぁ~……染みるぜぇ~」
「風呂は心の洗濯とはよく言ったもんだな。疲れが取れる」
まるで風呂に疲れが溶け出るようだ。
日焼けして肌がちりちりするけど、それでもこの心地よさには勝てん。超気持ちいい。
でも……こうしてる間も、イヤリングは波にさらわれて更に遠くに流されてるかも。
そう考えると、落ち着いてられないな……。
そっとため息をつくと、龍也が呆れたような顔を向けてきた。
「おいおい暁斗。風呂の時くらいイヤリングのことは忘れて、ゆっくりしろよ」
「……お前はエスパーか」
「へいへい。何年の付き合いになると思ってんだ。顔見ただけで、お前の考えなんて大体わかるわ」
にやりと口を歪める龍也。
寧夏もそうだったな。俺、そんなに顔に出やすいか?
自分の顔をもにゅもにゅとこねくり回す。と、龍也はタオルを頭に乗せてそっとため息をついた。
「今回ばかりは、暁斗のせいでも久遠寺のせいでもないだろ。だからあんま気負わず、見つかるのを待つしかない」
「まあ、そうなんだがな……」
頭ではわかっていても、梨蘭が悲しい顔をしてるってだけで居ても立っても居られないんだ。
これが惚れた弱みなのか、それとも赤い糸のせいなのかはわからないけど。
「ま、ネイの手配してくれたダイバー達も探してくれてるって言ってんだし、気長に待とうぜ」
風呂から上がった龍也は「じゃ、お先ー」と脱衣所に出て行った。
1人きりになった風呂に浸かり、外を見る。
満天の星空。その中に浮かぶ大きな三日月。それに寄せては返す波の音。
大自然に囲まれた1人きりの風呂……こういうのも悪くない。
「……ん? お、イルカ」
さっき助けたハンドウイルカだろうか。沖の方で楽しそうに跳ねてるな。
風呂のふちに移動して、それを眺める。
半露天風呂で、大海原と満天の星空を眺めつつ、イルカのショーを楽しむ。
この上ない贅沢な時間だ。
しばらくの間、その光景を眺めていると。
がちゃ。背後の扉が開いた。
龍也が忘れものでもしたのか?
「龍也、どうかした……の……か……?」
「……暁斗……」
ぇ、ぁ……ぇ?
……梨蘭?
そこにいたのは龍也ではなく、梨蘭。
頬は真っ赤に染まり、タオルで体を隠して佇んでいる。
一応肩紐が見えてるから、下は裸ではないみたいだが……って、何を冷静に分析してるんだ俺は!?
大急ぎで顔を逸らす。
なんで、なんでここに梨蘭が? え、嘘。夢か? それとも幻覚か?
しゅるる……ぱさ。夢じゃねえ! これっ、普通に現実だ!
背後から水を掻き分けてくるような音が聞こえ、梨蘭の息遣いや気配が近付いてくるのを感じる。
こ、れ、は……!? なんだっ、なんでこんな……!?
「暁斗、こっち向いて」
「い、いや、そのっ」
「暁斗なら気付いてるでしょ? 大丈夫、水着着てるから」
待て待て! 俺が着てないし、今振り向くのはまずい! 俺のジュニアがいろいろとやばい! 無理! あとあんまり近付かないで! 心臓が口からまろび出る!
「暁斗……」
ぴと。
ひいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!?!??!!
せ、せなっ、背中! 背中に梨蘭の手が触れてるううううううう!!!!
緊張で異様に筋肉が隆起する。
さっきまで心も体もリラックスしてたのに、今は全くリラックスできてない。むしろガチガチ。助けて、ぴえん。
「ねえ、暁斗。さっきも頑張って探してくれてたんでしょ?」
「な、なんのことだ……?」
「ここから丸見えだったわ」
あ……確かにここから浜辺も見えるし、海なんか丸見えだ。
「あー……えっと、その」
「隠さなくてもいいよ。でも……その気持ちだけで、本当に嬉しいの」
俺の背中に触れていた梨蘭の手の感触がなくなり……むにゅん、と別の感覚が背中を覆った。
これ、この感触……まずい。非常に、まずい。
だってこれ、どう考えてもあれだろう。うん、あれだ。
最近この感覚を感じたのは、梨蘭の家に泊まった時。
あの時は服が間に挟まってたからここまでの感触はなかったが……今は違う。
片や全裸。片や水着。しかも薄手の。
こんな状態で密着してたら……もう色々と爆発寸前である。
「今回急に泊まることになったのも、寧夏が気を利かせてくれたからでしょ? みんなの動きを見てたら、なんとなく察しは付いたわ」
「…………」
あぁ、ダメだ。疲労と湯あたりのせいか、頭が上手く回らない。
梨蘭が何か言ってるけど、全く頭に入ってこない。
それどころかぼーっとしてきたし、意識も遠く……。
「もし、今日から明日に掛けて見つからなかったら、本当に諦めるわ。一生懸命になってくれたみんなには申し訳ないけど……これも、運命だったのよ」
運命……今、そう言ったか……?
見つからないのが、運命……だったら。
「だったら……俺らの勝ちだな……」
「……え?」
あぁ、頭回らない……今俺が何を言ってるのかも、自分自身がわかってない……。
「運命が相手なら……俺と梨蘭の勝ち、だ……」
「あ、暁斗……?」
「俺らの『運命の赤い糸』なら……勝て……る……」
あ、もう無理。
梨蘭の声が異様に遠くに聞こえる。
それを耳に、俺の意識は暗闇に沈んでいった。
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