第107話
うぅ、気まずい……。
見渡す限りの水着、水着、水……え、これ水着か? 何このヒモ。アウトでしょ。
そんな水着ばかりの水着ショップにて、梨蘭は真剣な顔でものを選んでいた。
「んー。やっぱりここは三角ビキニ……いえ、あえてワンピースタイプも……オフショルダーもいいわね。迷うわぁ〜」
……楽しそうだな、こいつ。
梨蘭は手に持っているいくつかの水着を手に、こっちに振り返った。
「ねえ暁斗、どれが好みかしら? 暁斗の趣味を教えなさいっ」
「いきなり性癖暴露しろと言われても」
梨蘭が持っている水着を見る。
黒の三角ビキニ、白のモノキニ、花柄のハイネックビキニ、黄色いオフショルダー、フリルの付いたワンピース型。
正直、どれを着ても似合うと思う。
特に三角ビキニやオフショルダーなんかは、梨蘭のプロポーションを強調するだろう。
個人的には、他の男のいる前で際どい水着は来て欲しくない。
でも、これを逃したらまたいつ見れるかわからないし……ここは慎重に選ばなければ。
「うーむ」
「…………」
「ぐぬぬぬ……」
「…………」
「ふむぅぅぅ……!」
「……あの、そんなに悩まれると恥ずかしいんだけど」
「何を言う。せっかく俺に見せてくれる水着を買うんだ。真剣に選ばなくてどうする」
「それが恥ずかしいって言ってんだけど!?」
怒られてしまった。男心がわかってないなぁ、梨蘭は。
好きな女の水着姿を見るのに、必死にならない男はいないんだよ。
「試着はしないのか?」
「ええ。したとしても、アンタには見せないわ。海に行った時のお楽しみよ」
うーん。そうなると……あ。
梨蘭の持っている水着ではなく、別の水着が目に入った。
形状はビキニ。
だが上下の色は違く、上は白で下は黒。
しかもトップスには金魚の尾ひれのようなフリルが付いていて、豪華さと華やかさを演出していた。
「これ、どうだ?」
「え? ……ぁ、いいかも……」
どうやら梨蘭も気に入ったみたいだ。
水着を手に取り、サイズや手触りを確認している。
「……ちょっと試着してくるわね。待ってて」
「じゃ、外いるから」
「店内でいいじゃない」
「男が1人で女性用の水着ショップにいるつて、黒に近いグレーだぞ」
「むぅ……仕方ないわね。じゃ、同じフロアの休憩スペースで落ち合いましょう」
「おう」
梨蘭と別れ、ようやく店の外に出られた。
はぁ……あぁ、精神がゴリゴリ削られた……レディースの服屋なら問題ないけど、水着ショップはさすがにきつい。
梨蘭もまだ時間かかるだろうし、どっかでコーヒーでも買って……ん?
「……アクセサリーショップ、か」
しかも高いものじゃない。安くて数百円。高くても数千円くらいのものだ。
その中でも、一際目に付いたアクセサリーが一つ。
これ……いいな。
「あの、すみません」
◆
10分後。買い物を終えた梨蘭が、休憩スペースへとやって来た。
「暁斗、お待たせー」
「いや、待ってないよ。ほれ、いちごミルク。買っといたぞ」
「! さすが暁斗!」
俺の隣に座って、美味そうにいちごミルクを飲む。
ホント、いちごが好きなんだな。
「あ、そうだ。それとこれ」
「ん? 何これ?」
「プレゼント。梨蘭に似合うと思って」
「えっ、プレゼント!? 私に!?」
プレゼント用に包装された小さい箱を受け取り、満面の笑みを見せる。
が、次の瞬間訝しむような目を向けてきた。
「突然プレゼントなんて……怪しいわね。何か悪いことしたんじゃないの? 浮気とかしてないわよね?」
「しとらんわ」
運命の人と付き合ってて、他の女にうつつを抜かすようなアホなことはしないっての。
「水着ショップの近くに、アクセサリーショップがあったろ。その中の1つが、梨蘭に似合いそうだったからな。思わず買っちまった」
「…………」
「……なんだよ、そんな変なものを見る目で見て」
「いえ……暁斗って、こういうサプライズみたいなこともできたんだなぁと思って……」
「ああ、俺も驚いてる」
梨蘭の喜ぶ顔を見たいと思ったら、なんか自然とな。
そんなこと言わないけど。恥ずかしいし。
「開けてもいい?」
「おう」
梨蘭は丁寧に包装を剥がし、箱を開けた。
「ぁ……イヤリング?」
「そうだ。小さいアネモネを模した、ガラス細工のイヤリングだな。なんとなく、梨蘭に似合う気がしたんだ」
かなり細かく作り込まれているのに、割れにくい加工が施されているらしい。
金髪緋眼の梨蘭に、赤いアネモネのイヤリング。
これを見た瞬間、買わなきゃって思ったんだよな。
「…………」
「……梨蘭、どうした? も、もしかして気に入らなかったか?」
「ち、違うっ。そうじゃなくて……どうしよう。嬉しすぎて言葉が出てこない……」
「そ……そうか」
そんな反応されると、なんか恥ずかしいんだけど……。
「……付けていいかしら?」
「あ、うん。どうぞ」
手鏡を取り出し、慎重に両耳に付けていく。
普段アクセサリーを付けない梨蘭だが……華やかな見た目にイヤリングのアクセントが加わり、より一層可愛くなった。……気がする。
「どう?」
「……マジで、可愛い。似合ってる。好き」
「ふふ、ありが……って、何ナチュラルに言ってんのよ! しっ、しかも公共の場で……!」
あ、やべ。普通に声に出た。
梨蘭は本当に気に入ったのか、鏡を見てずーっとニコニコしている。
こんなに喜んでくれるなんて、思っても見なかった。
けど……買ってよかったな。
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