第8話
◆
時は過ぎて土曜日。
既に桜は散り初め、ところどころ葉っぱが目立って来た今日この頃。
俺は自室でのんびりと新刊のラノベを読んで。
「ほらお兄! 早く早くー!」
いなかった。
ショッピングモールの3階。レディースの服がメインで置いてあるフロア。
琴乃に拉致られ、俺には縁のないこんな場所に来ていた。
しかも全体的に大人っぽい服ばかり。
琴乃は年齢とは不相応の体付きをしているし、見た目も高校生……いや大学生と言われても信じられるくらいには大人びている。
それに、今日の琴乃は髪を三つ編みにしてるからかいつもより大人っぽい。
歩く度に、周りの男共がチラチラと琴乃を見ている。
おいテメェら、俺の可愛い琴乃を見てんじゃねえ金取るぞ。
「わー! これかわいー! 見て見てお兄、これ可愛いよ!」
「はしゃぐな、恥ずかしい」
が、いかんせん中身がお子様だ。
しかも兄離れが出来ていなさすぎて、基本俺の腕に抱きついたまま。
暑い、うざい、うるさい。
「ぶーっ。私みたいな美少女とデートしてるんだよ? もっと嬉しそうにしてよっ」
「美少女なのは認める。だが休日に荷物持ちで拉致られてる現状をデートとは言わん」
「うわぁ、実の妹に美少女ってキモ……」
「張り倒すぞ」
「あいたっ」
むーっとした顔で、デコピンされた額をさする。だがどことなく嬉しそうなのはなんなのだろう。
「にしても、お前中学生で金もないだろ。ここにあるの基本5000円オーバーだけど、買えるのか?」
「もち! お父さんに「お願い♡」ってねだったら、お金くれた!」
マジかよずりぃ。俺も「お願い♡」って言ったらお小遣いくれるかな。ダメか、殺されるわ。
色んな店に入っては見て周り、見て周り……既に2時間、何も買っていない。
「お兄、このワンピース似合う?」
「あー、似合う似合う」
「このショートパンツは?」
「似合う似合う」
「このオフショルダーシャツは?」
「似合う似合う」
「……このクマさんの絵の入ったシャツは?」
「似合う似合う」
「お兄適当すぎぃ!」
ちょ、ぽかぽか殴んな。
琴乃は腰に手を当て、むすーっとした顔で指を指揮者のように振るい指さして来た。
「全くもうっ。お兄、そんな適当だと運命の人に嫌われちゃうよ。めっ」
「人を指さすんじゃありません」
でも……嫌われないとは思うが、あいつが不機嫌になることだけは避けたいな。
……って、何であいつが不機嫌になることを避けようとしてるんだ俺は……!
「お兄。私はこの15年間、お兄のことをずっと見てきました」
「まあ実の兄妹だしな」
「そんな女っ気のないお兄に、私が女の何たるかを教えてあげます」
「男っ気のないお前に言われても……それに女なら寧夏がいるぞ」
「あの人は女と言うより女児だから……」
言えてる。寧夏に聞かれたら無言でペチペチされそうだけど。
「という訳で早速お兄には、私を彼女扱いしてもらいます」
「は? 琴乃を彼女扱い?」
「そう! やっぱり女の子は、女の子扱いされると喜ぶの!」
そんなもんなのかね。
久遠寺も、女の子扱いされたら喜ぶのだろうか。……ダメだ、想像できない。そもそも喜ぶ姿が想像できない。
でも確かに、女慣れしてないのは事実だ。
相手は実の妹だが、肉親の贔屓目に見ても美少女だと言える。女慣れ……とまではいかないが、まあ慣れるのに越したことはないだろう。
「ってかお前が女扱いされたいだけじゃねーの」
「ギックゥ。そそそそんなわけないよぉ」
わかりやすいリアクションをありがとう。
「琴乃なら同じ学校の男子から引く手あまただろ」
「あーダメダメ。確かに告られるけど、同い歳はガキ過ぎてダメ」
「は? 告られんの? 誰だ俺の可愛い琴乃に告る馬の骨は蹴り殺すぞ」
「お兄、シスコンきもいよ」
「妹を守るのはお兄ちゃんの務めだからな」
「全くもう……」
とか言いつつ嬉しそうな琴乃。もし琴乃に犬の尻尾が付いてたら、ものすごく振ってるだろうな。
琴乃は嬉しそうに俺の腕に抱きつき、グイグイと引っ張る。
が。
「さー! そうと決まれば早速服を買いに──」
ぐうううううぅぅぅ……。
「……琴乃?」
「ち、違うしっ。私じゃないしっ」
いや顔真っ赤たけど……あ。
「あー……悪い琴乃。今にも腹が減りすぎて死にそうだ。もうダメ。餓死する」
「え……?」
「なあ、先に昼飯食わないか? 頼むよ」
「……ぷ、ぷっはー! もー、しょーがないなー。このままじゃお兄が可哀想だしー、可愛い可愛い琴乃ちゃんは、先にお昼を食べることを許しましょう!」
うざ。
「……ありがと」
「……どういたしまして」
◆???◆
「……あれ? あれは……真田君? ……さ、真田君がっ、見知らぬ美女とデートしてる……!? り、梨蘭ちゃんに報告しなきゃ……!」
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