CO インフレ……妬みが。
数日ぶりの我が家。
扉を開けて、彼女の靴を見つけた。
「帰ったぞ」
だから、そう言った。
玄関で靴を抜いで、リビングに入る。
すると、ソファーに腰をかけてコーヒー片手に何かの雑誌を呼んでいた悠希が振り返った。
「お帰り」
「ああ」
すぐに視線を雑誌に戻して、悠希はコーヒーを飲む。
「お風呂沸いてるわよ」
「……なんだ、帰ってくるって分かってたのか?」
用意周到じゃないか。
「まあ、なんとなく」
「そうか」
ありがたいことだ。
正直、さっさと風呂に入って眠りたい。
……ああ、そうだ。
その前にもう一つ言わなくちゃな。
「いきなりあけて悪かったな」
「ちゃんとメモはあったわよ」
「メモ?」
首を傾げる。
俺はそんなのは置いていってないが……。
ふと、テーブルの上に一枚の紙を見つける。
それを手にとって……頬が引き攣った。
エリスのやつ……よくも、まあやってくれるものだ。
「これ……馬鹿な勘違いとかしてないよな?」
「馬鹿な勘違いって?」
「そりゃあ、お前……」
口ごもる。
「なによ?」
悠希が訝しむように俺を見た。
「いや……なんでもない」
「そ」
まあ、怒っている様子でもないし、平気……か?
「それで臣護。どうだった?」
「それ、わざわざ言う必要はあるか?」
「……ないわね。顔を見れば分かるもの」
悠希が肩をすくめる。
「まあでも、詳しい話はあとでしてくれるんでしょう?」
「聞きたいなら、いくらでも」
「その時に私から説教があるので逃げないように」
「……」
あるのか、説教。
まあ、そこは甘んじて受け入れるとしよう。
「それと、罰もあるから」
「罰だって?」
おいおい、何をさせる気だ?
俺はひとまず飲み物が欲しくて、冷蔵庫からコーラの缶を手にとって、悠希の方に歩み寄った。
ソファーの背もたれの部分に体重を預ける。
そういえば、何の雑誌を読んでるんだ?
随分と熱心に見てるが……。
覗きこむとそこには……指輪?
いくつもの指輪の写真が載っていた。
これは……。
「よし」
悠希が立ちあがる。
そして、雑誌を俺につきつけてきた。
「はいこれ」
「え?」
これが、なんだ?
「選んどいてね。やっぱりこれは男に任せた方がいいでしょ」
「任せるって、なにを?」
「はあ、そんなの決まってるじゃない」
やれやれと悠希が首を振る。
「罰は、プレゼント」
「ああ――」
なるほど。
指輪を買えと、そういうことか。
納得した――つもりだった。
「ちなみにそれ、婚約指輪になるから。きちんと選んでね」
「――……え?」
†
もといた世界に帰ってくると、丁度期限切れ。
俺は、皆のいる大陸に帰ってきていた。
そしてまず……あの二人と合流する。
宿屋の一室。ドアを叩く。
ドアの向こうから、人の気配が近づいてくる。
そして、ドアが開いた。
「え――?」
彼女が、目を丸める。
「よう、メル」
彼女に――メルに挨拶をする。
と、メルの後ろからウィヌスが顔を出した。
「……わざわざ気配を消してくるなんて、趣味が悪いわね、ライスケ」
「ちょっと、驚かせようかと思って」
「それなら大成功ね」
ウィヌスがメルをみて苦笑する。
「あ……あ」
メルが俺を指さして、呆然としていた。
「ライスケさん!?」
「ああ、そうだぞ」
軽い衝撃。
お?
メルが俺に抱きついてきたのだ。
「お、おい? どうしたんだ?」
「おかえりなさい、ライスケさん!」
笑顔で、メルがそう言ってくれる。
ただ……その距離が。
メルの顔がすぐ目の前にあった。
「……あ。す、すみませんっ!」
気付いたのか、メルが顔を真っ赤にして離れた。
「い、いや」
「メルも大胆ね」
ウィヌスが笑う。
「これ、私も抱きついておくべきかしら?」
「からかうなよ」
「あら、からかったつもりはないけれど」
……え?
すると、ウィヌスが身を寄せてきた。
彼女の腕が背中にまわされる。
そして、抱擁。
「おかえり、ライスケ」
「お、おう?」
な、なんだこれ。
どういう状況だ。
「な、なにをしているんですか!?」
硬直する俺の代わりに、メルがウィヌスを引きはがした。
「あら。どうしたの?」
「ど、どうしたって、ウィヌスさんこそどうしたんですか!?」
「私?」
「普段のウィヌスさんならこんなことしないでしょう!?」
「それはそうね」
ウィヌスが首を傾げる。
「……なんで私、ライスケに抱きついたのかしら」
自分でも分からないってどういうことだ。
「順当に来れば次はわたしだろう。なあ?」
背中に、柔らかな感触。
腕が肩に回される。
「――は?」
「久しぶりだなライスケ。よく帰った」
その声を聞き間違えるわけがない。
「イリア?」
「ああ」
振り返ると、触れそうなくらいの距離にイリアの顔があった。
……動揺して、イリアが後ろから近づいてきてることに気付けなかったのか?
「イリアさんもなにしてるんですか!」
「おいおい、ここは久しぶりとか言う場面じゃないか?」
「それはライスケさんから離れてからです」
「……はいはい」
イリアが俺から離れる。
そして始まったのは、ウィヌスとイリアに対するメルからの説教。しかし途中、ウィヌスとイリアがメルも抱きついていたことを指摘し、そこからお互いがお互いに変なことを言いだし始めた。
……その騒ぎの中、ようやく俺は正気を取り戻す。
「え、ええっと……」
彼女達の喧しい様子を見ながら、頬をかく。
……これは、どういうことなんだ?
†
後悔も反省もしていない。
「いやしなさいよ」
頭をウルに小突かれる。
……普通に痛かった。
「なにをするの、ウル」
「なにって、あんたこそなにしてるのよ!」
「それはもちろん、皆を襲っただけだけれど?」
「しれっと言うな!」
逆側から今度はアリーゼに叩かれた。
「帰ってきていきなりベッドに押し倒すとはどういう了見だ! しかも全員!」
「いえ……だって、全員を愛したかったから」
「エリス様……」
ナンナが感動したように瞳を潤ませる。
「ん……ちゅ、ぷ……く、んぁ……ちゅく……」
「ふ、むっ……ん、んぁ……じゅ、ぷ、はぁっ……」
とりあえずディープキスをしたら顔を赤くしてベッドに倒れてしまった。
「って、なにしてるんですか!」
ティナに怒鳴られる。
「ナンナさんだけずるいです!」
「そこなのか!?」
ティナの言葉にアリーゼが呆れたような顔をする。
「じゃあ、ティナも……ん、ちゅ……ふ、んん……」
「ぁ、ん……く、ぷ、ぁ……ふっ、ぁ……」
キスすると、ティナは満足したのか、赤みがかった顔で笑む。
「なんで私、こんなの好きになったんだろ……」
「……もういい」
ウルとアリーゼが頭を押さえる。
……まったく、いちいち全部が可愛いわねえ。
愛おしい。
「主」
ヨモツに呼ばれる。
「なに?」
「……」
無言でヨモツは私を見つめる。
「キスは、いいものだな。胸が温かくなる」
「……ええ」
そうまで言われて、やらないわけにはいかない。
「ちゅ……っ、ぷ、ふぁ……ん、ちゅ、む……」
「ん、ふ、っ……じゅ、ん、ちゃ……ふ……」
「……どう?」
ヨモツの胸元に指をあてて、尋ねる。
「ああ」
微笑みが返される。
「温かいな」
「それはよかった」
「ああ、もう!」
ウルが私の肩を掴む。
そして――。
「ちゅ、ん……ん、はぁっ……む、じゅ、ん……」
「ちゅ、く、ぁ……む、っ……ふ、ちゅ、ん……」
少し強めのキス。
「積極的ね」
「自棄になってるだけよ!」
ウルが顔を真っ赤にして叫ぶ。
思わず笑みがこぼれた。
「……私ももう自棄になる!」
今度は、アリーゼに唇を奪われた」
「じゅ、ん、ふぁ……ちゅ、む、ぁ……っ、ちゅ……」
「んん、っ、ふっ……む、んん……ちゅ、く、ぷ……」
唇が離れて、アリーゼはそのままシーツに包まる。
……ああ。
やっぱり、これよね。
幸せだ。
本当に。
この幸せを、噛み締める。
婚約、指輪……だ、と!?
CO終わりっ!
どうもでした!




