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CO インフレよどこまでも。

 そして俺は、蘇る。


 この身は敗北を乗り越えて、次に至った。


 山羊頭の獣が、虚空より現れた俺を見詰めていた。


 呆然としている、のだろうか。


 よく分からない。


 まあ、いいさ。


 この俺の想いを、もうお前などに傷つけさせはしない。


 そう。


 今、はっきりと言える。


 お前など大したことはない。


 醜いそれが、俺の想いに届くなど、有り得ない。


 それに俺の想いは、俺だけのものじゃない。


 俺には、俺を支えてくれた、仲間がいるんだ……!



《――彼女は強く、俺の手を引いてくれた――》



 背中から、翼が広がる。


 それは、透明な……水で出来た鋭い爪を象った翼。


 ずっと俺といてくれた彼女の力を借りる。


 爪翼を振るう。


 山羊頭の下半身が、粉微塵に変わる。


 再生は、しない。


 絶叫。


 理解できない現象に、山羊頭が吠えながら、俺に炎を吐いてきた。



《――彼女は微笑み、俺のことを待っていてくれた――》



 炎が俺に焼くことはない。


 この炎だけではない。


 決して何も、俺を傷つけることは出来ない。傷ついてなどいられない。


 何故なら俺は、帰らなくてはいけないのだから。


 待っている人が、いるから。



《――彼女の瞳に、俺は憧れた――》



 白と黒が混じった刀身に、金色の柄。その刀身の周りに渦巻く水と風。


 いつでも前を見つめる彼女が使う、天の魔剣。


 それを幾億本、浮かべる。


 掃射。


 山羊頭は両腕を掲げ……その両腕が吹き飛ぶ。



《――彼は笑い、俺のことを分かってくれた――》



 手の中に、白い剣が二本生まれる。


 俺の友人である、彼の動きを思い出す。


 剣を振るった。


 刹那の内に、数え切れぬ斬撃を放つ。


 空間ごと山羊頭の胴は斜め十字に裂けた。


 山羊頭は咆哮し、ほとんど首だけの状態で、俺に向かって口を開いた状態で突っ込んできた。



《――彼らは静かに、俺とともに歩んでくれる――》



 俺の内側から、声が聞こえる。


 あの四人の声。


 俺と同じ、欠片を身の内に秘めていた、彼らの声。


 そして、その欠片そのものであり、最後には俺が喰らった、原初。


 聞こえる。


 俺の内の、全ての声が。


 倒せ……と。


 そう言ってくれている。


 山羊頭の牙が、目の前に迫る。


 けれど……その牙が俺に届くよりも早く。


 俺は手を伸ばし……空中から、その動きに合わせるように巨大な純白の腕が生まれた。


 そのまま、その純白の腕は俺に向かってくる山羊頭を――掴んだ。


 山羊頭が潰される。


 俺の……俺達の想いに。


 手ごたえは軽く。




 山羊頭は、消滅した。



 蘇り、俺は深呼吸を一つした。


 その隙に、無形の獣が俺に向かって爪や牙を突き出してくる。



《彼女はいつでも、俺の傍にいてくれた――》



 空から何かが降り注ぎ、その爪牙を全て砕く。


 雷光。


 俺の大切な彼女が使う武器の光。


 それだけで、なんて心強いことか。


 負ける気がしない。


 彼女の力が俺とある。


 いっそ、高揚感すらあった。



《――彼は飄々と、俺の背中を守ってくれた――》



 白銀の刀が俺の周囲に四本生まれ、それが激しい雷撃を纏う。


 まるで衛星のように俺の周囲を回転するその刀の剣尖が無形に向く。


 俺の友の刃だ。


 半端じゃないぞ。


 四条の閃き。


 無形の半分ほどが蒸発する。



《――彼女は朗らかに、俺を見ていてくれた――》



 無限の白銀の弾丸が空を覆う。


 俺達とは違う世界に生まれ、俺達の世界を大切にしてくれた彼女の弾丸。


 渦を巻くような動きで、弾丸が無形に振りそそぐ。


 さらに半分、無形が削れた。



《――彼女の威風は、俺の歩みを早めてくれた――》



 銀の槍が手の中に現れる。


 それを胸の前で構えた。


 穂先に力が集まる。


 世界一つを敵に回した彼女の槍だ。


 受け切れるものか。


 投擲する。


 全てが貫かれる。


 音もなく、無形が残り僅かとなる。


 異形が俺に向かってその身体を細長くして爪を伸ばしてくる。


 それを、片手で受け止めた。


 かすり傷一つすら負わない。



《――彼は始まりに、俺に戦う力を与えてくれた――》 



 俺の周囲に巨大な白銀の球体が無数に浮かぶ。


 俺に、俺らしく生きる方法を……魔術や剣を教えてくれた、師匠とも呼べる存在。


 その最大の魔術。


 球体が炸裂し、そこから砲撃が放たれた。


 俺に掴まれ、無形は避けることなんて出来ない。


 呑みこまれる。


 砲撃が晴れて……もうそこには、なにもなかった。




 異形は、消滅した。



 なんて陳腐なんだろう。


 思わず笑う。


 追い込まれて、新しい力に目覚める。


 ありきたり、よね。


 でも構わない。


 ありきたりというのはつまり、王道。


 それもまた路ならば、そこを歩んでみるのもいい。


 私の歩む路はどうせ、最強の路なのだから。


 王道だろうと、邪道だろうと、そこだけは変わらない。


 六脚は私をその蹄で踏みつぶそうとする。



《――彼女は温かく、私を抱いてくれた――》



 穏やかな光が私を包み込んで、六脚の蹄はその光の内側に入ってこれない。


 この温もりがあれば……もうなにも怖くはないわね。


 ただ、少し惜しいのは……抱かれる温もりはあっても、これでは彼女を抱けないということ。


 帰ったら、抱きしめよう。


 彼女だけじゃない。


 皆を。



《――彼女は可憐に、私に口付けてくれた――》



 虹色が、空と大地を塗り潰す。


 負けず嫌いで、ついに私よりも上手に刃を作り上げた彼女。


 その一撃は、鋭く、重い。


 天地から、剣や槍、斧、鎌など、多種多様の武器が飛び出し、六脚の脚を斬り落としていく。



《――彼女は純真で、私の手を握ってくれた――》



 私の背後に、黒い十本の巨槍と六本の巨剣が浮かぶ。


 無垢故に何も知らず傷つけてばかりで、けれど変わりはじめた彼女。


 巨槍と巨剣が降る。


 巨槍が右の翼を千切り、巨剣は左の翼を千切る。



《――彼女は真っ直ぐ、私と同じ路を選んでくれた――》



 六条の光が空間から生まれ、辺りを縦横無尽に駆け巡る。


 光の刃。


 人を守りたいと、そのために騎士になった彼女。


 その刃は、この獣のような存在を斬る為ためにこそある。


 獣の胴が半分に断たれた。



《――彼女は一途に、私に言葉を伝えてくれた――》



 漆黒の結晶体が、空中に無数に浮かぶ。


 その身一つで魔の王の頂点に上り詰めた彼女。


 結晶が弾丸のように、獣に打ち出された。


 獣の首から下が弾ける。



《――彼女はずっと、私の手の内にいてくれた――》



 もちろん、忘れてはいない。


 手の中に、黒い剣が現れる。


 彼女も、私の大切な存在。


 応えるように、刀身が震える。


 ゆっくりと、横に薙ぐ。


 それだけで、獣の顎から下が吹き飛んだ。



《――彼女は強かで、私の姉でいてくれた――》



 ちょっと喧嘩はしたけれど。


 でも今は、仲の良い姉妹でいられてる、と思う。


 そうよね?


 手を、獣に差し出す。


 それだけ。


 それだけで、獣は跡形も残さず塵になった。




 獣が、消滅する。



「……皆の力を、感じるわ」



 自分の手を見て、微笑む。


 心の底から力が沸き出して来るかのようだ。


 負ける気なんて、欠片もない。


 見えるのは勝利のみ。


 それ以外はありえない。


 何故なら、私には……いえ。



「俺達には、大切な存在が力を貸してくれている」



 臣護が、虚空からその姿を現した。


 それに次いで、ライスケも現れる。



「ああ。この力があって、負けるわけがない」

「……ええ」



 まったく、私達は恵まれている。


 それぞれが、それぞれかけがえのない友人に、仲間に、恋人に、大切な人に囲まれている。


 だからこその《真想》。


 自分だけじゃない。


 自分のことを信じてくれる皆の力も、身の内にある。


 獣が沸きだす丘を睨む。


 ……さあ。


 もう、終わりにしましょうか。



「行くわよ」




あと二話くらいですかねー?

明日は更新できるか怪しい。

何故かって?



新作エロゲの発売日なんですよ?

……あ、頑張って更新します、ハイ。なので石を投げないでブギャ!

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