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12話 宣言

 百橋君の番が回ってきたと言うことで、クラス内はびっくりするくらい音がなくなっていた。自然に発生してしまう音以外の人工的な音という音が消え去り、まるでコンサート前の会場のような雰囲気が辺りを支配している。


 これじゃあ自己紹介しようにもやりづらくて仕方ないだろうなあ……と、僕は他人事のように百橋君の境遇に同情した。

 でもまあ、この程度のことは男なら既に今までの人生で経験してきただろう。百橋君も慣れているようで、なんか腑に落ちない表情を浮かべながらも自席を立って口を開いた。


「百橋司です。誕生日は5月15日、趣味は漫画を読むことです。最近楽しかったことは、友達と一緒に遊んだことです」


 当たり障りのない内容が百橋君の口から放たれる。


 中には、その内容を一字一句逃すまいと躍起になっている生徒もいるが、それでもまあ自己紹介にしては普通の内容だ。


 そのことに僕は少し安堵した。この空気に当てられて、好きな女子のタイプとかを口走ったらとんでもないことが起きそうな予感がしていたからね。まあ、それは杞憂に終わりそうなんだけど。


 僕たち男は日々様々な視線に晒されている。


 女性たちから目立つなんて日常茶飯事だし、こういう時の対処法だって個々人で習得している物なのだ。当たり障りのないことを言えば場を逃れることができる。


 これが、この世界における賢い生き方ってやつだ。


「好きな女子のタイプは、おおっぴらに異性の好みを言わない人です。以上です」


 うん。


 全方位爆撃だね。


 百橋君は涼し気な表情ながらも、どこかやってやった感を出しながら自己紹介を終え自席に着いた。

 今まで散々好きな男子について話してきた女子たちに向けた、お前とは付き合わない発言に場は一時騒然とする。


 彼が今何を言ったのか、何を突き付けられたのか。非情な現実が襲い掛かったことに一拍置いて全員が彼の言葉を咀嚼しきれた頃、クラスは二分していた。


 異性の好みを自己紹介でおおっぴらに発言した組と、そうではない組に分かれる。

 騒ぎこそしなかったもののあからさまに絶望した表情を浮かべる者と、あからさまに安堵の表情を浮かべる者。


 僕のような第三者から見れば最早隠す気などないのではないかと疑いたくなるほどに皆一様に一喜一憂していた。


 やりやがった……!マジかよあの野郎やりやがった……!


 僕は内心でそう思っていた。

 だって、こんな自ら荒波立てるような発言をする愉快な性格をした人だとは思っていなかったから。


 休み時間は憂鬱そうにスマホを画面を見ていたし、大人しい性格をしているのかなと思っていたけど、そもそも共学に入ってくるっていう時点でそれなりに度胸はあるのだろう。


 担任の武川先生すらも呆然として進行を放棄している。僕の番は百橋君の次の次なので、まだあと一人間に挟む。


 ちなみに、星野さんの自己紹介は所々噛むところはあったけどちゃんと自己紹介できていた。人前に立つのが苦手なんだろうなという雰囲気こそあったものの、話に聞いていて程の人見知り具合ではなかった。


 一瞬とも永遠とも取れるような沈黙が続き、漸く武川先生が戻ってきた。


 と、そして自己紹介は進む。僕の前に座っていた役重さんの自己紹介は百橋君の後と言うこともあってか異性のタイプに触れることなく恙なく進み、かなり当たり障りのない内容になっていたと思う。


 あとはもう消化試合だ。


 一番最初に自己紹介をした人が異性の好みどころかスリーサイズまで宣言するような奇人だったインパクトと、この自己紹介におけるメインディッシュであった百橋君の番が終わったということで、あとの人たちはまあ伸び伸びと当たり障りのない自己紹介をすればいい。


 なんか山場がなくなってつまらなくなったと言えばそうとも言えるけど、とはいえ、僕はこういう場でおちゃらけられるような性格をしていないし。


 好きな女性のタイプならいくらでも言えるんだけど、この姿で言うような事じゃない。そもそも僕は男だ。好きな男性のタイプなんてないし、恋愛対象は女である。

 

 と、まあそんな感じで僕の自己紹介も恙なく終わった。




 ▽▽▽




「自己紹介だけだったのになんか疲れたよ……」


 一限が終了し、十分休みとなった今、僕は隣で項垂れている星野さんと話をしていた。一見何事もなかったかのように自己紹介を終えた彼女だったけど、内心では緊張しっぱなしだったのだとか。


「人見知りを克服したと思ってたけど、人前に立ったり目立つのはまだ慣れないみたい」

「それは普通だと思うよ……?」


 そういうのって、慣れる人が異常なだけで誰でも緊張するもんだと思う。大企業の社長だって、人前に出るのは緊張するらしいし。こういうのは慣れるよりも適度な緊張があった方が良かったりするのかもしれない。


「それに、人見知りとはちょっとベクトルが違う気もするしね」

「そうかなぁ……?」

「そうだよ。人見知りって人と話すのが苦手な人のことでしょ?こういう発表の場って別に誰かと話してるわけじゃないし」


 まあ、ちょっとベクトルは違うけど大枠は一緒みたいな感じなのかもしれないね。


「僕と面と向かって話せるならそれでいいじゃん。誰かの前に立つ機会なんて早々ないんだし」


 一人脳内反省会でもしているのか、ちょっとばかし神妙な面持ちをしている星野さんを励ます。

 

 そんな会話をしている僕たちの下に、一人の客人が姿を現した。

 身長は高い方ではなく150cm前半くらい。ウェーブのかかった金髪を靡かせ、ゆったりとした雰囲気の人だ。


「どうも~。こんにちは」


 彼女は先ほどの自己紹介タイムで場の空気をおふざけモードに切り替えた出席番号一番の朝留芽瑠さんだった。


 ゆったりとしたマイペースな彼女は僕と星野さんの会話に割り込み、挨拶をする。その流れで僕も挨拶を交わす。


「こんにちは。朝留さん」


 星野さんの身が若干強張ったような気がするけど、やっぱりまだ人見知りが解消しきれていないのだろうか。


「おー。あたしの名前覚えててくれたんだー。嬉しー」


 そりゃ覚えるでしょ。しょっぱなからスリーサイズを言うような人のことを忘れるなんてそんなことあるはずがない。

 それに、僕は男だ。女子が自分のスリーサイズを宣言するなんておいしいイベントを忘れるなんて余計あり得ない。


「僕たちに何か用が?」

「いやー。特に用があるわけじゃないんだけど~。まあ、友達になろう的な~?」

「友達……?」

「うん。あたしって趣味が人間観察じゃん?」


 言ってたねそんなこと。


「入学初日からクラスメイトのことはちゃーんと観察してたんだけど~。時雨っちと歩夢っちは二人ともきれーだから、友達になりたいなって」

「構いませんよ」


 しまった。僕のパッシブスキル初対面の人に対する敬語がここでも発動してしまった。出来るだけフランクな感じでいこうと思っているんだけど、気を抜くとすぐに発動してしまう難儀な能力である。

 

「時雨っちお堅ーい。もうちょいゆる~く行こうぜい」

「朝留さんは緩すぎるんだけどね……」

「おー、あたしはゆるふわ系目指してっからね~。めるちーって呼んで~」


 初対面の人をあだ名で呼ぶというギャルさながらな……いやギャルか。見た目的にはギャルだな。


 そんな朝留さんの距離感の詰め方はちょっと慣れないけど、悪い気はしない。


「歩夢っちもこれからよろしくね~」

「はいっ!よろしくお願いします!」

「あはは。歩夢っちもお堅ーい」


 うん。まあまだ初対面の人との距離を測りかねているんだろう。


 けどまあ、何にせよ二人目の友人ゲットだぜ!

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