第73話 洛陽を脱出した李儒などの話を聞いたが酷いもんだな
さて、并州では呂布たちが順調に勢力を伸ばしているようだし、涼州も馬騰や韓遂・牛角などが各地を抑えている。
そして洛陽に派遣した曹操が、李儒や清流宦官の若手などを引き連れて戻ってきた。
残念だが蓋勳は皇甫嵩のもとへ行ったようだがな。
「皆が無事戻れて何よりだ」
しかし、曹操は残念そうに言った。
「残念ながら、救えぬものも多数ありました」
「うむ、だがそれも仕方あるまいな……」
呂強・向栩・張鈞などはおそらく霊帝や少帝、そして後漢王朝そのものに殉じたのだろうな。
「せめて、丁重に葬ってさしあげるようにしよう。
生きている我々にできるのはその程度しかないがな」
「ありがとうございます」
命をかけて彼らの遺体を持ち出してきたものへの、せめての慰めになればよいがな。
そして俺は李儒にきいた。
「洛陽でおきたことに関して詳しく説明をしてくれるか」
「はい、天子が病気で崩御してすぐに董(重)将軍は、まずは何(進)大将軍や袁(隗)次陽殿らを宮中に呼び寄せ、彼らは董(重)将軍の配下のものにより殺害されました」
「ふむ、董(重)将軍としても、何(進)大将軍が自分たちを排斥に動くと思っていただろうから、先手をうったというわけだな、しかし、袁(隗)次陽殿も一緒に殺害するとは思わなかったな」
「董(重)将軍は、袁(隗)次陽殿が宦官とも外戚ともどちらとも通じる不義理者であるとしておりましたな」
「なるほど、それはわからんでもない」
実際に袁隗は宦官にも近い、がだからといってその特定の誰かにすり寄るわけでもなく、気がつけば重要な地位についているという老獪なやつだからな。
史実の董卓も最初は袁隗を立ててるくらいだ。
「それを知った袁(紹)本初殿は、しばらくは洛陽に潜伏して、古くからの伝を頼りつつ一度は汝南へ逃亡した後、袁家一族に捕らえられそうになると、さらに兗州へ逃げたようです」
「ふむ、汝南袁家一族は袁(紹)本初殿を受け入れなかったのか?」
「ええ、もともと清流派と交わることを快く思わなかったものが多かったようで」
なるほどな、史実でも汝南ではなく冀州に逃げたのは汝南では受け入れられない可能性が高かったのもあるのか、冀州が人口の多い豊かな場所であるという事もあっただろうが。
「董(重)将軍は劉協様を次の天子にするという遺言を霊帝は残されたと言いました。
ですが、その後に行われた群臣の協議により劉協様は幼すぎると言うことで、劉弁様が即位し、何皇后様が太后となり、何(苗)叔達殿が大将軍になって朝廷に臨んだのです。
ですが、これをよく思わない董太后様が政事の参加を欲する毎に何太后様はそれを禁じたのです。
結果としては何(苗)叔達殿らは新しい天子に董太后が宮から本国へ遷るべきであると上奏し、その上奏は許可され董(重)将軍は監獄の中で殺され、それに従った宦官も殺されました。
その間、袁(術)公路は宮殿から逃亡し何(進)大将軍の配下だった兵をまとめていました。
董太后様は病に倒れてそのまま崩御されたのです。
しかし、何(進)大将軍は兵士に慕われておりその配下だった兵を率いた袁(術)公路が兵を率いて宮殿へ乗り込みまず何(苗)叔達と何太后を弑逆しました。
さらに即位したばかりの少帝とそれに従う宦官も、彼らの手によって殺されたのです。
袁(術)公路は劉協様を保護し新たに天子として即位させたというのが現状です」
そして別の宦官がいう。
「先帝は亡くなる前にこう言い残しております。
”運命とは自分ではどうもならぬものだ。
母の行いにより父に嫌われ、帝位につくことなど無いと思っていたが、
その母の行いにより帝位について間もなく殺されようとは。
もし生まれ変わることがあっても二度とこのような皇帝の家に生まれたくはないものだ”と」
「なるほどな、その気持はわからぬでもない。
ところで霊帝の葬儀はどうなっているのであろうか?」
「実際それどころではなくてまだ行われていません」
「そうか……」
史実でも霊帝は崩御してから董太后と董重が殺されて後の、二ヶ月ほど遅れて葬儀が行われているが、同じようにそれどころではないということか。
単に袁術などが金をケチってるだけかもしれないが。
霊帝の生前の行いのつけとは言え葬儀も行われないとは惨めなものだな。
しかし、宦官や俺が中央へ推挙した者たちが逃げたり、役人を家格で登用することにした袁術の政策により元の身分が低いものが罷免されたりして、洛陽の情報源が減ったのは痛いな。
行商人や乞食等の情報源が残ってるだけマシではあるが、史実の袁紹は董卓のもとに知己であるものが多数残っていたから内実を掴むのも楽だったろう。
しかし、俺の知り合いに袁術が好んで登用しそうなやつはいないし、それはおそらく袁紹も同じだろう、案外面倒なことになるかもしれないな。
しばらくは袁術や袁紹などの動向を伺いつつ、積極的にはどちらにもかかわらないのが一番か。




