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第66話 閑話:涼州と中央の関係など

 もともと、涼州は永初四年(110年)に涼州から住民を強制的に避難させ、涼州は放棄しようという涼州放棄論があり、涼州を羌族の略奪から戦って守ろうという気のない司隷などの出身の郡や県の長官たちがそれを考え実行した。


 しかし実際には現地の民には土地を離れたがらない者も少なくなく、それに対し郡や県の長官たちは避難を強制させるため、自らの兵で住民の家屋や蓄えを破壊して民が逃げるしかないように仕向けた。


 その結果避難の途上で一家が離散したり、食糧をえられずに餓死したり、異民族などに捕まり奴隷されるものも少なくなかった。


 そのため、涼州の民は中央から派遣される官司を信用していなかったし、中央から派遣される官司も涼州の民がいつ反乱をこすかわからないと思っていた。


 結局涼州で幅を効かせていたのは司隷などの内地出身の郡や県の長官であり、涼州の現地の人間を守るよりは、現地人の暮らしを破壊してのいわば焦土戦術による異民族侵入対策を行ったことに対して、不信感や怨みを持った者も少なくなかった。


 その後、何度か涼州放棄論は出て来たが、涼州を放棄すれば今度は司隷を直接攻撃されるだけだという意見で涼州は放棄されずにすんでいた。


 だが、順帝から沖帝・質帝・桓帝にかけて権力を握り、専横を振るって最後には粛清された梁冀が涼州は安定郡烏氏県の人であったこと、梁冀派の宦官張惲や梁一族だけでなく、梁冀に引き上げられた連座して死刑になった高官や免職になった者も多くは涼州派閥であった。


 梁冀が三族迄殺された後は当然多くの涼州系の人間が涼州で逼塞を余儀なくされた。


 梁冀の基本方針は、異民族と調和することで彼の配下であった張奐は、これに従って戦っていた。


 逆に対する桓帝の方針は、従わぬ異民族はすべて討伐するで、段熲はこれに従って戦った。


 梁冀は涼州を守るために中央の官職を自派閥で多数占めることで権威と権力を確立していったが、軍事に疎く軍権を実質的に持っていなかったのが致命的だった。


「宦官さえ出しゃばらなければこんなことには……」


 さらには士大夫が後漢の人材登用である郷挙里選制度によって「孝廉」という客観的に優劣を判別する手段がないものを用いたことで、地方豪族は自分の子弟や息のかかった大した能力のない人物を中央政府に送り込むのに利用したが、それによって実際には大して使い物にならない評判倒れの人材ばかりが送られて来ることになり、なおかつ士大夫の反梁冀派はそれまでに排除されてしまっていたため、専横する外戚を打倒するのに皇帝が頼りにするのは側近の宦官だけで皇帝が士大夫らを役立たずと思い、頼みになるのは宦官達だけだと思うのもしかたないことではあった。


 結局その後外戚と組んだ清流派は宦官や濁流派との政争に敗れてしまうわけだが、その2つの出来事により涼州の人物は後漢の中央へのつながりを大きく失ってさらに中央への不信感を高めてしまった。


 その状況が変わったのは黄巾の乱で清流派党人の官職復帰が許されたことであって、それにより官職に復帰できた清流派士大夫も多かった。


「欲まみれの十常侍がいなくなってようやくわかったのか。

 我々も必要だということを」


 そして、黄巾の乱は荊州北部や豫州・冀州と言った場所に集中していたので、司隷や并州・益州などの県や郡などの役人として採用されたものは多かった。


 辺章もその一人で、司隸弘農郡にある新安県の長である新安令の座についていた。


 そんな折に先零羌の北宮伯玉による反乱が起こってしまい、辺章と董卓の次女をはじめとする妻達は不安を隠せずにいた。


「できれば今すぐに涼州に行って母や家族一族を保護したいが……勝手にやめるわけには行かぬしどうしたものか?」


「父の董将軍が今益州の漢中にいるようですし、父に保護を頼む文を送ってはいかがでしょうか?」


「ああ、董将軍ならなんとかしてくれそうだな、君の御父上に頼むとしよう」


 辺章は董卓あてに文を送った。


「誠に勝手な願いにて申し訳ござらぬが、どうかどうか司隸弘農郡の新安県に居て身動きが取れない自分の代わりに我が母と一族の者たちを庇護してくだされ」


 そして董卓よりは早速文が戻ってきた。


「うむ、安心なされよ。

 そなたのも含め一族はとうに庇護している。

 我が一族と縁戚である馬氏・韓氏・牛氏のそれぞれの家族親族も、既に我々の庇護の下にあるので安心されよ」


 辺章はその文を見てホッと息を吐いた。


「君の父上は既に身内はすべて保護しているそうだ。

 君のおばあさまも含めてな」


「それは本当に良かったです」


 辺章と妻は抱き合って喜びあったのであった。

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