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第138話 袁紹と逢紀・許攸の離間計を行わせるか。

 さて、年が明けてそうそうに黎陽降伏の報告が俺のもとに入ってきた。


「思っていたより早く黎陽が降伏して、今の所は順調のようだな」


 俺がそう言うと賈詡がたしなめるように言った。


「物事が順調に行っているように見えるときこそ気を引き締めるべきです。

 人間危機であれば気を引き締めますが、勝利が続けば慢心いたします」


 俺は苦笑しつつ賈詡の言葉にうなずいた。


「ふむ、たしかにな。

 黄河は氷が厚くはって馬や車でそのまま渡れる時期と氷が完全に溶けて船を自由に使える時期に加えて、氷が薄く馬や車だと氷が割れて転落してしまうが、船を使うには氷を割りながら進まなければいけない時期があるからな」


 史実の曹操もこの氷が薄い時期の対策に苦労していて氷を民衆に割らせていたが、これはひどい重労働で、それが民衆にはよく思われておらず、袁紹の統治していた時期のほうが良かったという声になった原因の1つであったようだ。


「はい、ですのでその時期は最悪黄河の南岸から北岸への物資輸送は出来ないものと考えたほうが良いかと」


 俺は賈詡の言葉にうなずいた。


「そうだな、まず黎陽への食料や武具、衣料品や履物の補充を急ぎ、黄河の氷が溶けかけてから完全に溶ける間に黄河を渡れずとも万全にさせ、改めて周辺への略奪などを禁ずることを通達させよう」


 賈詡は頷いて答えた。


「はい、それがよろしいかとまたこの際に袁紹とその部下に対し離間計を仕掛けておくのもよろしいかと」


 俺はそれを聞いて首を傾げた。


「ふむ、投獄されていた田豊は曹操の手引きで彼をしたう部下たちとともに、すでにこちらへと来ているし、沮授は捕縛したと聞くがな」


 賈詡は首を横に振って言った。


「それでも袁紹の臣下の数はまだまだ多く、その兵数も侮ることは出来ません」


 俺は賈詡の言葉にうなずいた。


「ああ、たしかにまだまだ袁紹の兵力は侮れん」


 俺がそう言うと賈詡は言葉を続けた。


「現状では袁紹の参謀役である郭図・辛評と逢紀・許攸らの対立は深まっておりますが、許攸は張邈や曹(操)孟徳とも親しい仲でした」


「ふむ、ならば逢紀・許攸らが俺に通じていると袁紹に思い込ませればいいというわけか?」


「はい、さすれば袁紹の疑心は更に深まり、臣下から離反するものが増えましょう」


「では、引き続き曹(操)孟徳に働いてもらうとするか。

 ちと彼ばかり働かせすぎな気もするが」


「彼以外にはこういったことの重要さを理解できるものが少ないですから致し方ありませんな」


 俺は逢紀と許攸に対して曹操を通じて俺から送られたように見える偽の手紙をしたためてから、曹操を呼んだ。


「お呼びでしょうか?」


「うむ、これは俺が逢紀と許攸に当てて送る手紙だ。

 これを誤って郭図の手元に届くようにしてほしいのだ。

 そして逢紀と許攸にお前が実際接触しているように見せてほしい」


 曹操はそれを聞いてニヤリと笑った。


「かしこまりました。

 その役謹んでお受けいたします」


「ああ、頼んだぞ」


 逢紀と許攸を実際にこちらに引き込むかどうかはともかく、彼らがこちらに寝返ったとしても、袁紹に殺されたとしても俺に損はないしな。


 寝返ってきて袁紹陣営の細かい情報が手に入ればそれでいいし、殺されて袁紹が疑心暗鬼になればそれはそれでいい。

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