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第122話 袁紹との決戦が始まったぜ

 さて袁紹との決戦も近づいている。


 俺はすでに前線に出て陣頭指揮を取るわけではないので、前線で戦うものが勝利を得やすくするのが仕事なわけだ。


 隠居したんだからそのあたりも息子などに任せても良いのだが、前線での武力を見せつけるのに比べれば後方で前線が勝ちやすくするというのは地味で分かりづらいものだ。


 漢の高祖である劉邦を支えた蕭何は韓信や張良、陳平と言った人物に比べて地味であるが、秦の法制度や戸籍制度の内政的な利点を熟知し、兵士の徴兵や糧秣の差配を担当してこれを決して途絶させず、兵士を略奪に走らせることもなく、秦の歴史書や法律、各国の人口記録などが保管されている文書殿の文書を確保して、項羽によるそれの破壊の前に全て持ち帰り、劉邦陣営における後方行政事務の一切を取り仕切り、丞相に任命され、内政の一切を担当して項羽の蛮勇の前に敗北し続けた劉邦軍を維持し続けた人物だ。


 韓信や張良、陳平と言った人物がいなくとも最終的には劉邦が勝利した可能性が高いが蕭何がいなければ劉邦は軍を維持できずに死んでいただろう。


「戦術的敗北を戦略的勝利で挽回することはできても、戦略的敗北を戦術的勝利で挽回することはできない」は事実であると言う良い事例であろう。


 とはいえ「戦術的勝利は戦略的な態勢の勝利に優先する」というナポレオン・ボナパルトの言葉などを代表するように戦術的な勝利の積み重ねが戦略の達成につながるのも事実であるのが難しいところではある。


 だが、蕭何のように後方にて兵の訓練を行わせ、武将や兵士に武具を揃えて身に着けさせ、前線への食料や飲料水の供給を途切れさせないという事務手続きは大事であろう。


 やがて兗州や徐州、冀州、青州などへの侵攻の手はずも整い、万の兵を率いる将軍たちが司隷、荊州、揚州、豫州、并州などからそれぞれ動き始めた。


「では兄上これより我々も進撃を開始します」


「ああ、今回の目的は袁紹の本拠地である鄴を落とし天下を平定することだ」


 董旻は俺の言葉にうなずいた。


「はいわかっていますよ」


「もちろん袁紹も手をこまねいているわけではないだろう。

 油断はするなよ」


「そうですね。

 西楚の覇王のように百戦して九十九勝しても最後の一戦で敗北して滅ぶのは願い下げですからね」


「ああ、俺たちと袁紹の兵力にそこまで大きな差はないのだからな」


 そこに呂布が口を開いた。


「油断はいたしませぬが最初から敵を恐れていては勝てるものも勝てなくなります。

 義父上は安心して我らにお任せください」


「わかった、必ずや勝利の報告が届くと信じよう」


 いざとなれば俺が陣頭に立つということもできるが出来ればそうならないでほしいものだ。

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