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第11話 成人して妻を持つことになったぜ

 さて元嘉2年(152年)に賈詡と出会ったことで俺たちは象棋をいっしょに指したり用兵について話し合ったりする仲間ができたのは嬉しいことだった。


「もともと戦争の勝敗は天の時によるものと考えられていましたが、孫武は勝敗はそれだけではなく地の利・人の和、そして行動を予測することでその裏をかく事が大きいとしたのが画期的であったのだな」


 俺がそういうと賈詡がうなずく。


「ええ、そうですね。

 相手の虚をつき勝ちやすきに勝つことが大事であるというのはそれまでと大きく異なったのでしょう」


 そして弟も付け加える。


「要するに騙される方が悪いってことだよね」


 俺はそれに苦笑して答えた。


「身も蓋もない言い方をすればそうだな」


 そしてそんなことをやっているうちに翌年の 元嘉3年、永興元年(153年)となって俺は数えで15になり成人を迎えた。


 成人の儀式は夏王朝にはすでに始まっており周代には男子は20歳で加冠し元服を、女子は15歳で加笄して髪結いをするとされていたが実際にはより早く国政に携わるようにするため、周の王室や諸侯などは12歳で元服するのが通例となっていて漢でも中央の役人の子女などは12歳で元服して儀礼や作法を身に着けているかチェックされて、それをクリアすれば結婚や王宮への出仕なども行うようになる。


 冠礼は祖廟の内で行われ2月の吉日を占い家族や友人に知らせる、冠礼3日前には占いで冠礼を主宰する大賓を決め、さらに冠礼の介助を行う「賛冠」者を1人選ぶ。


 このあたりは日本の元服よりちょっとめんどくさい。


 そして儀礼当日には、受冠者の父が主人として名目上宴席の長を務め、大賓によって式は進行して、主人、大賓、賛冠、受冠者はみな式服に身を包み、最初に緇布冠、次に皮弁の冠、最後に爵弁の冠と呼ばれる冠を授けそのたびに、大賓は受冠者に対し祝辞を読むことでめでたい席を強調する。


 最初にかぶる緇布冠は人治権を持つことを象徴し、皮弁は兵権の所有を、最後に爵弁が加えられたのは祭祀権の所有、すなわち家という集団における継承権をえて継続して家を残すために婚姻を可能とするもの。


 一方このあたりでは男女の成人の儀式は数えで15歳になり、2月に裸の馬に乗って遠の村まで馬を走らせ指定されたものをその村でもらってまた戻ってこないといけない。


「結構厳しいが、やるしかないからな」


「兄ちゃんちゃんと帰ってきてね」


 弟が心配そうに言うのでぐりぐりと頭を撫でる。


「大丈夫だ、心配すんな」


 まあ、例年だと途中で力尽きるやつも何人かいたりするから結構命がけではあるんだが、これくらいはなんてことはないと思う。


 むしろ一緒に育ってきたやつが脱落しないか心配だ。


「よしみんな行くぞ」


「おお」


 とはいえ皆小さいときから馬に乗ることはなれてるので、最初は危なげないスタートだった。


 しかし、長い間の時間を鐙のない馬にまたがり続けるのはけっこう大変だ。


「これはけっこう大変だな……」


「確かに」


 長い間足を馬の胴体にはさみ込まないと行けない状態では足が鬱血するので、俺はかなり大変そうなやつの馬の背中をまたぐように縄をかけて縄の先を輪っか状に結び、足で縄の輪っかをふむような形で踏ん張れるようにしてみた。


「どうだ?」


「ああ、ちょっと楽になったよ、これだけでも姿勢が楽になるものだな」


「馬には嫌がられるだろうからなるべくなら使わないに越したことはないけどな」


「そうなのか、すまんな」


 俺達にとって馬は友達みたいなものだ。


 だから馬が嫌がることはなるべくやりたくはないが乗り手の命がかかってるならまた別だ。


 俺たちは途中で馬に草を食わせて水を飲ませたり、パオと呼ばれるテントで自分たちも休憩したりしながら無事に目的の村にたどり着き、皆で成人の証である皮の冠を受け取ってまた戻ることに成功した。


「ふむ、今年は脱落者なしとは良いことだ」


 父がしみじみと言うので俺はそれにうなずいた。


「ええ、一緒に育った奴らが欠けること無くみんな成人できてよかったですよ」


 ま、ちょこっとズルはしたがそんなに大きなズルではないし大丈夫だろう。


 俺は成人して3人の妻を娶ることになった。


 一人が馬騰の姉妹、もう一人は牛輔の叔母、韓約(後の韓遂)の妹に当たる女性。


 それぞれ馬夫人、牛夫人、韓夫人と呼ばれ董一族と馬一族、牛一族、韓一族が縁戚となって部曲も増えたのだ。


 部曲というのは本来軍の編成単位なのだが、現状では日本の武士における一族郎党のような豪族の私兵を指すと言ってよく、私兵をたくさん持てばそれだけ有利になるのは間違いなかったりもするのだ。

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