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十九、反抗期


「ロジュ、私は謝罪を受け入れないよ」



 ウィリデの言葉に、ロジュは弾かれたように顔を上げた。それはロジュにとって思いがけない言葉であった。ウィリデの表情は、なんと表現したらいいのだろうか。ウィリデの若草色の瞳は逡巡するように揺れていた。


「ロジュ。立って。ロジュが悪くないことで、私が謝罪を受け取ることはないよ」


 ウィリデはそう言いながら、ロジュに手を差し出した。ロジュはウィリデの手を取らず、首を振る。


「俺がいなければ、ウィリデ陛下はアーテル姉さんと平和に暮らせ……」

「ロジュ」


 ロジュは藍色の目を見開いた。ロジュの言葉を遮ったウィリデから、一気に表情が抜け落ちたのに気がついたからだ。ウィリデは跪いているロジュに近づく。ウィリデは体制を低くして、ロジュの両肩をつかんだ。ウィリデは自分の手に力が入っていることに気がついていない。


「ロジュ、許さないよ。ロジュがいなければ、だなんて。ロジュ自身が言うことも許さない」


 それは、怒りであった。ウィリデは声を大きく出していないが、いつもより格段に低い。ウィリデの瞳に宿る怒りを受け止めきれず、ロジュは目を逸らした。




 二人の様子を見ながらラファエルは考える。この二人は、ウィリデとロジュは、互いに苦しめ合っているのではないか、とラファエルは以前感じた。互いに、思うことがありながら、言うことができていない。そのせいで、互いを大切に思う気持ちに水を差しているように感じる。


「ロジュ様、ウィリデ様」


 今まで黙って見ていたのに、急に声を出したことで、その場の空気はラファエルが主導権を握ることとなった。


「お二人とも、特にロジュ様は、本当は言いたいことがあると見受けられます。この際、互いにぶちまけてみたらいいんじゃないですか? 腹を割って話しましょう」


 ニコリとラファエルは笑う。その薄紫色の瞳には、本気で二人のことを心配している色が浮かんでいた。


「私も、それがいいと思うわ」


 アーテルは知らない。時間がまき戻った後の世界でウィリデとロジュがどのように過ごしてきたか。だからこそ、猛烈な違和感があった。ウィリデのことを「ウィリデ陛下」とロジュが呼んでいる現状に。その一方で、ロジュはアーテルのことは「アーテル姉さん」と呼んでいる。それが、気になっていた。

 他にも、二人の間を流れる雰囲気は明らかに以前とは異なるものであったと気がついている。遠慮している。互いのことに踏み込みきれていない。そんなことを感じていた。


「分かった」


 ウィリデはラファエルからの提案に、あっさりと頷く。ロジュはしばらくの間、目を伏せて黙ったままであった。


「ロジュ様」


 ラファエルから名を呼ばれ、ロジュは顔を上げる。ラファエルは、ロジュに茶目っ気たっぷりで話しかける。


「ロジュ様、ウィリデ様への反抗期、というのはどうですか?」


 ロジュは虚を突かれたように動きをとめ、ラファエルを見つめた。そして、息を吐きながら肩の力を抜く。ロジュは弱々しく笑った。


「分かった。反抗期、な」


 ロジュも了承したことで、ラファエルは嬉しそうに笑う。この時間が上手くいくか分からない。それでも、何もしないよりはましであろう。


「それでは、ゆっくりお話しましょう。ロジュ様、お席にお座りください。ウィリデ様も、アーテル様も」


 ロジュはラファエルに差し出された手をとって、立ち上がった。ウィリデも頷いて長椅子に座る。アーテルはその横に座った。ロジュとラファエルは二人の向かい側に座る。


 口火を切ったのは、ロジュであった。

 

「ラファエルは俺が言いたいことがありそうだと言っていたな。間違いではない。それでも、記憶を思い出したことで、だいぶ納得はできることも増えている」


 ロジュは天井を見上げた。そして、ウィリデへと視線を移す。


「ウィリデ陛下。ずっと、気になっていたんだ。なんで、ウィリデ陛下が炎を見るたびに怯えるような、見たくないものを見たような表情を浮かべていたのが、気になっていたんだ。でも、やっと納得できた。ウィリデ陛下の部屋は燃えていたもんな。……。テキューが、燃やしたんだろう? それなら理解できる。ウィリデ陛下がテキューに敵意を向けていた理由も」


 ロジュの大半の疑問は解決されていた。それは、ロジュの記憶がないが故に疑問であったのだから。


「本当に、それだけですか?」


 ロジュにラファエルは問いかける。その質問の意図が分からず、ロジュは首を傾げる。


「どういう意味だ?」

「それは、事実の理解、ですよね? ロジュ様の感情はどうなのですか?」


 ラファエルからの指摘にロジュは顔を強張らせる。この側近は、どこまで見抜いているのか。


「お前は、本当に……。俺のことを見てるんだな」

「そう言ってもらえて光栄です」


 ラファエルはロジュに微笑みかけるが、見透かされたロジュは俯いた。二人のやりとりをウィリデは黙って見ている。アーテルは穏やかに微笑んでいた。同世代と仲良く話しているロジュを見たことがなかったからだ。


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