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三十四、真相予想

「まあ、今回の食事会自体は王が開いたものであるから、王への叛逆と捉えられて対処されるだろうな」


 今回の食事会自体、おそらくソリス国王がロジュに、そして家族に歩み寄るために開いたものであろう。以前ウィリデが王にどうにかしろと言ったわけであるから。それを利用されるというのは王も許さないだろう。


「恐らく、リーサとの婚約するという噂、そして中立派の主格であったバイオレット公爵家が第一王子派、つまりロジュにつくという噂。この二つでテキューを支持する人間は焦るだろうな」


 どの出来事が悪かったわけではない。しかし、各人が己のしたいように動いた結果だろう。ウィリデも他人事ではない。ソリス国王にロジュとの関係をどうにかしろ、と焚き付けたのはいいが、ロジュに毒を盛られる場を結果的に作ってしまったことになる。ウィリデは悔しげに深緑の髪をかきあげる。


「しかも、今日雨が降っているというのもまた意図的に感じる。ファローン国の人間も絡んでいるのかもな」


 フェリチタに雨を持つ国、ファローン国。最も五年間外交をしていないウィリデが直接あったのは五年以上前だが、果たしてファローン国王家はロジュの暗殺に自国の民が関わっている可能性があることを知っているのだろうか。


「ファローン国の人間で、ソリス国中に雨を降らせることができる人間はいるのでしょうか?」


 テキューはそのウィリデの説にすぐ納得することはできない。


「……。お前がそれをいうのか?」


 ウィリデの瞳が燃え上がるような色を見せる。若草が燃え上がる様は、風が強く吹いている森の中のようだ。


「ロジュは、太陽すら落とすことが可能だ。それほどまでフェリチタから寵愛を受けている。お前は、知っているだろう? 忘れた、なんて言わせないぞ」


 きっとこの言葉の真意はテキューにしかわからない。テキューはしっかりと理解している。グッと拳を握り締め、ウィリデを見る。


「忘れた日なんてありません。しかし、ロジュお兄様と同じ程度の加護を受ける人間が他にいるとは思えません」


 テキューだって、忘れていたわけではない。ただ、ロジュほどの加護は奇跡とも言えるものであり、普通はあり得ない。


「別に一人の人間がやっているとは言っていないだろう。複数人なら可能だし、ソリス城の周辺だけならもっと条件は簡単になる」


 ウィリデは窓から外を眺める。


「太陽が差し込む方が、ロジュの回復の手助けになるだろうな」


 ウィリデはそう言った。ロジュに強い加護を与える太陽。その存在が隠れている場合と隠れていない場合ではロジュの体の状態にも影響するとウィリデは考えている。


「しかし、一体どうやって」


 テキューはその方法を思いつかない。ファローン国に頼むにしてもその手段を持ち合わせていない。


「方法はある。雲をどかせばいい」


 雲がなければ雨は降らない。だいぶ強引な方法であるが、望みはあるかもしれない。


「雲、ということは、ベイントス国に頼むのですか?」

「そうだ」


 テキューは近くの国、ベイントス国を思い浮かべる。この国のフェリチタは雲と風。


「しかし、ベイントス国の人間は利益にならないことはしませんよね」


 ベイントス国の人間は無駄を嫌う。特に王家は国のためにならないことを絶対しないだろう。


「大丈夫だ。交渉カードはある」


 ウィリデは全く心配していない。ウィリデはベイントス国に対して交渉上、優位に立てる。以前のシルバ国で起きた密輸事件。これにベイントスの人間が関わっていたのだから。


 ウィリデは先ほど鳥を呼んだのと同じ手順で呼び寄せる。そしてまた手紙を書くと、再び外に送り出した。


「多分これでなんとかなる」


 テキューはウィリデを奇妙なものを見る目で見つめる。ウィリデなら状況を打破してくれそう、とは思っていたが想像以上だった。ウィリデは底しれぬ手札を持っているのだろう。


「さっきの話の続きだが。おそらく今回の事件はロジュを狙ったものだろう」


 ウィリデがついでのように話を続けるが、その内容はテキューにも予想はできていたことだった。


「では、紅茶を運んできた使用人も共犯ということでしょうか」

「いや、断定はできないが、違うんじゃないか。だって、すぐにその人が犯人だとばれてしまうから」


 そんなに犯人が分かりやすいことはないだろう。ロジュに紅茶をだした人間が真っ先に疑われる。そんな捨て駒になることを簡単に受け入れる人間は、脅しでもされていない限りいないだろう。

 ウィリデの返答にテキューは首を傾げる。


「それではロジュお兄様だけを狙うのは無理じゃないですか?」

 紅茶を運んできた使用人が関わっていないとすれば、ロジュだけに毒を届けることはできなさそうだ。間違って他の人が飲んだら問題だ。

「いや、できる」


 ウィリデは予想と言っているが、自分の中では全貌が見えているのだろう。特に悩む素振りもなく話を続ける。


「おそらく、王族が飲む紅茶の全てに毒が入っていた。しかし、今回ロジュだけが飲んだのは何故か。ロジュは、紅茶に砂糖を入れずに飲んだ。他の方は砂糖かミルクを入れていた」

「つまり、犯人はロジュお兄様が一番最初に飲むという確信があったということですね」


 テキューは自分の紅茶にも入っていた可能性を考え、手を震わせながら、ウィリデに問いかける。テキューのその言葉にウィリデは頷く。


「そうだ。しかし、犯人は別の可能性も考えていただろう。ロジュがたまたま最初に飲まなかった時。もし他の人が飲んでしまった場合、ロジュに飲ませられなかったどころか、他の王族を殺してしまう。それは犯人も避けたいところだろう。それなら、どうすると思う?」


 ウィリデの問いかけにテキューは悩む。ロジュだけを正確に狙う方法。


「そんなこと可能ですか?」


 ウィリデは、テキューは狂気を秘めている割には思考は常識的な部分も持ち合わせているのかもしれない、と思った。

 ウィリデが推測した方法は博打だ。少しでも外したら大事故。それでも、それを実行したということは相当犯人は焦っていた。


「ロジュ以外は紅茶に砂糖かミルクを入れていた。つまり、毒を中和する薬剤をそこに混入すれば良い」

 今回はたまたまロジュが最初に飲んだが、もし他の人が飲んだ時の保険が必要だ。

 毒を作る時には解毒薬も同時に作るのが一般的。だから、この犯人もそうしているはず。


「砂糖とミルクを解析しろ。それが早い」


 ウィリデの指示にテキューは頷く。ロジュのカップは割れているため、紅茶は食堂のカーペットに染み込んでしまい、時間がかかっているようだ。その点、机の上にあった砂糖、ミルクは解析しやすいだろう。

 テキューがソリス国王に伝えに行こうと部屋から出たところ、緑と金の混ざったような髪を持つ美しい人物が到着したことに気がついた。

 ヴェール・シルバニア。

 ウィリデの弟であり、シルバ国で王位継承権二位である。彼は国から出たことはなく、これが初めてになっただろう。


「ヴェールがきたか」


 テキューの後に部屋から出たウィリデもヴェールに気がつく。


「ヴェールも解析に加われば、多分すぐにわかる」


 ウィリデがヴェールに向けるのは曇りのない信頼。その兄弟の絆にテキューは少しだけ羨ましくなった。


「ヴェール。全責任は私が取るから、何をしてもいい。ロジュを助けてくれ」

「かしこまりました、兄上」


 ヴェールは力強く頷く。ヴェールは大きいかばんを一つ持ってきており、そこには薬草が大量に入っていることが見て取れる。

 三人はシルバ国王に会うために、彼を探して歩いて行った。



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