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五十五、禁書

 誰の声もしない、静まり返ったソリス城内の書庫。ロジュが本を流し読みする音だけが響く。ここは禁書が置かれている場所。王族しか立ち入ることができず、本の持ち出しは厳禁だ。


 テキューが以前持ち出していたが、その後警備は厳しくしたと報告を受けている。


 何か手がかりがあるとすれば禁書だろう。通常の書庫にある本は何度か読んだことがある。全部を覚えているなどと断言するつもりはないが、ロジュの記憶の限りではない。


 本が「禁書」とされた要因はそれぞれだ。


 例えば、事実が知れ渡れば、影響が大きすぎるが後世に記録を残したい場合。王族の戒めを残す場合。


 テキューが「赤い瞳の慣習」についての調べ物の際に使った本が禁書だった理由も、「記録としては残しておきたい」という側面が強かったのだろう。その一方で、王族の汚点を民の間で残しておくわけにはいかない。当時の「事実」が自然と風化されるように、意図的に当時の情報の出版を禁じた。

 ありそうな話だ。結局その愚王の事実は風化したわけだ。効果があったと言えるだろう。


 「赤い瞳の慣習」については思考から追い出し、ロジュは手にしていた本を机に置いた。本は少しずつ積み上がる一方、めぼしい情報は出てこない。

 現在は「睡眠」についての関連を調べているが、禁書と言ってもたいした情報はない。禁書にする必要性がすぐに分からない程度の情報だ。


「ルクスかフェリチタ関係、か?」


 ルクスという不思議な道具。しかし、ウィリデは子どもの頃からルクスを製作している。「愛情」をこめて作るというもの。


「愛情が不足……? いや、それはないか」


 愛情は測ることができるのかも分からないのに、不足や枯渇の状態は考えにくい。そして、ウィリデはアーテルと婚約をしたばかりの状態。互いへの愛に溢れた2人だ。愛に満ちあふれた関係を作っていることだろう。


「フェリチタ関連、か?」


 しかし、ピンとは来ない。一応ロジュは大学でフェリチタについての研究をしている。文献もある程度は読んだ。もっとも、他の人との平等性のため、禁書に関しては読まないようにしていたが。


 今回ばかりは仕方がない。ロジュはフェリチタ関連の禁書を片っ端から確認し始めた。


「いや、でも、あんな状態聞いたことがないが」


 そう。情報と存在していない。それではウィリデの「起きない」というのがラナトラレサで初の現象なのか。あるいは、今まで隠蔽されてきたことか。


 時間の猶予は分からない。ロジュ自身の仕事も蔑ろにはできない。

 それでも決めているから。ウィリデを助ける。


 多分3日くらいの徹夜なら何とかなるはずだ。


 ロジュは息を吐いて、外れだった本を目の前の机に積み上げた。


 ◆


 どれくらい経っただろうか。欲しい情報のなかった本を目の前にまた積み上げる。身体が固まっている感覚で立ち上がった。


 高い天井を見上げる。目が疲れてきた。ぎゅっと瞬きをしてから、遠い場所の物を見ようとして周囲に目を向けた。


 ふと、1冊の本が視界に入った。


「世界滅亡?」


 ロジュは導かれるようにその本がある場所へと向かう。手にとった。


 それは、詩集だった。タイトルは大仰だが、内容は多岐にわたる。


 世界の美しさから、世界の残酷さ。あるいは日常の小さな幸せやちょっとした愚痴。


 湧き上がる疑問。これがなぜ、禁書なのか。


 ぱらぱらとめくっていると、表紙と同じタイトルの『世界滅亡』という詩で手を止めた。


『祝福あれば 呪詛がある

 ひとたび呪詛が はびこれば

 世界の破滅は 目前だ

 解決するは 奇跡の子

 滅ぶは 世界か愛し子か

 あるいは 愛を廃すのか』


 ロジュは呆然とそれを見つめる。何が言いたいのか。分からないが、あまりにも不吉。そして、引っかかる言葉があった。


「……呪詛? つまり呪い、だよな?」


 そこでロジュは息を呑んだ。自分が見落としていた可能性に。


「まさか……。ウィリデは呪いを、かけられた?」


 慌てて呪いの文献を探す。


 呪い。それはフェリチタへの憎悪や反感といった「悪感情」を媒介として引き起こされる。


 本人がフェリチタを憎悪している必要はない。フェリチタへの信仰心が薄い場所なら、人に呪いをかけやすい。


 例えば、トゥルバ国。トゥルバ国のフェリチタは「土と岩」であり、フェリチタへの意識は弱い。その一方で、意識が弱いからこそ、憎悪が生まれることもある。


 なぜ、フェリチタが「太陽」の国、ソリス国が世界の頂点のような顔をしているのか。

 フェリチタがあるせいで、自国の力が強くならないのではないか。


 そのように、フェリチタを理由として自国の影響力のなさを恨む。そうすれば、憎悪が生まれる。


 ソリス国にも、憎悪が潜んでいるのだろう。

 なぜ、あの人の方が加護が強いのか。なぜ、フェリチタは自分を愛してくれないのか。


 フェリチタが尊重されるソリス国だからこそ。他者と比べ、自分に持たないものをほしがる。そして与えられないことの怒りが向かうのは、「自分より持つ者」の可能性もあるが、その差が存在する要因となったフェリチタだ。

 だからこそ、信仰心の高いソリス国やシルバ国内から呪いが生まれる可能性は全く否定できない。


 いくつかの文献を読んでそのように理解したロジュは、頭を押さえた。

 呪いの可能性があるのは分かった。しかし。


「どうやって解けと?」


 呪い方はあっても、呪いを解く方法までは書いていない。もっと他の書物を探さないと見つからないだろうか。

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