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六十五、空白を埋める存在

 ロジュに向かって柔らかく微笑んだラファエルは、外の様子を見に行く。そんなラファエルを見て、オーウェンは目を見開いた。


「あいつ、ロジュ殿下にはあんな表情を見せるんですね」

「家では違うのか?」

「私には幼いころのラファエルしか知りませんが、もっとつまらなさそうだった気がします。ロジュ殿下が、ラファエルの空白を埋める存在だったのでしょう」


 ラファエルは兄のオーウェンが後継者を放棄してどこかに行ってしまったと言っていた。それでも、ロジュが貴族名簿を見た限りは一応名簿に名は残っているようだ。

 それにしても空白を埋めるとは何だろう。ロジュは、よく分からなくて首を傾げたが、少し考えると何となく意味が分かってきた。自分の中の行動指針のようなものだろう。ロジュはオーウェンをじっと見つめて口を開いた。


「オーウェン、お前にとって、それはクムザだったのか?」

「え⁉」


 オーウェンが大声を出して、顔を赤くした。そして照れたように顔をそむける。


「あ、え、そうです」


 口もごりながら答えたオーウェンを、ロジュは藍色の瞳でじっと見つめた。その反応をみると、オーウェンがクムザを好きだということは明白だった。


「ラファエルは俺に恋愛感情を持っていない。それに対して、オーウェンは忠誠心だけには見えない。恋愛感情も持っているよな? オーウェンと、クムザの年齢差は十三歳差だろう? 気にならなかったのか?」


 ロジュに追求されるとは思っていなかったのだろう。一度瞬きをしたオーウェンは顔を赤くさせたまま、慌てたように首を振った。


「ロリコンではないんです。それでも気になりませんでした。私は一人の人間としてクムザを愛しているだけなので」

「ロリコン?」


 いきなり知らない単語が出てきた。よく分からない。ロジュが不思議に思っていると、少し頬を染めたクムザが、オーウェンを小突いた。


「ちょっと、オーウェン! ロジュお兄様になんて言葉を吹き込んでいるのよ」

「ま、まあ、クムザ。今ので分かっただろう? ロジュ殿下たちの知っていることは、俺たちが知っていることと違う」

「そんなことがロリコンで判断できるわけないでしょう? あの世界の人間みんながロリコンを知っているとでも?」

「知っているだろ」

「ちょっと、貴方本当はロリコンなんじゃないの?」

「だから違うって。俺はお前だけだよ」


 二人の会話はテンポよく進む。これがクムザの演じていない姿なのだろう。ロジュはしばらく見つめていたが、口を挟んだ。


「それで、結局ロリコンってなんだ?」

「お兄様は、知らなくていいわ」

「ああ、幼い子を……」

「オーウェン! 黙りなさい。ロジュお兄様、なんで急に恋愛感情の話を?」


 クムザに理由を尋ねられて、ロジュは首を振る。


「単純に気になっただけだ。本筋とは関係がない」

「え……? ロジュお兄様が? 恋愛に興味…? 一体どうなっているの? ロジュお兄様ってこんなにマイペースな人だった? ()()()()ロジュ・ソリストとは全然違う……」


 クムザがブツブツ呟いているのをロジュは尋ねようとしたが、その前にラファエルが帰ってきた。


「ロジュ様、誰もいませんでした」

「じゃあ、遮断するか」


 ロジュが椅子から立ち上がった。そして窓際に立つ。外を見上げる。太陽の眩しさに目を細めた。その後で、ゆっくりと目を閉じる。


「我がフェリチタ、太陽よ」


 ロジュは黙って祈る。他の人から見て変化があるわけではないが、上手く遮断しているはずだ。ロジュは椅子に戻った。



「それで、どこを話せばいいか……」


 ロジュは視線を彷徨わせた。そんなロジュを見ていたウィリデが口を開いた。


「私は、一度死んだ。そして再び生きている。この情報でどう?」


 ウィリデの言葉で、ロジュが目を見開いた。ウィリデは思った以上に核心に触れる発言をした。


「え? そんなルートあった?」

「いや、俺は見つけてないけど」

「そうよね」


 クムザが思わずこぼした言葉に、オーウェンが返事をする。ルート? ロジュには何の話をしているか分からない。クムザが口を開いた。


「ロジュお兄様、バイオレット公爵令息。二人も一度死んだの?」

「俺は多分死んでいないが、時が戻る前の記憶があるのは確かだ」

「僕もです」

「そう。前世の記憶があるのね」

「ぜんせ? ああ、前の世か。言い当て妙だな」


 クムザの言葉にロジュが納得したように頷く。クムザとオーウェンは顔を見合わせた。そしてクムザが口を開く。


「ウィリデ国王陛下の情報公開に免じて、丁寧に教えてあげるわ。私たちは貴方たちとは違う世界の記憶があるの。フェリチタもいない。王族もいない。貴族もいない。そんな世界よ。私も、オーウェンも別人として生活していた」

「そんな世界が……」


 ウィリデが思わず声をこぼす。クムザはウィリデの方をみて頷いた。


「そこで、この世界はゲームだったわ」

「ゲームとは何ですか?」


 クムザの言葉にラファエルが質問をした。クムザは迷ったようにオーウェンの方を見る。


「体験型の物語みたいなものだ。分からなくても流してくれ」

「オーウェンの説明で大体合っているわ。とにかく、この世界について知っていたという認識でいいわ」


 二人の説明に、ラファエルはよく分からない、という表情で頷いた。ロジュもあまり分かっていない。しかし、その説明に時間を割くわけにはいかないのだろう。クムザは話を続ける。


「そのゲームではロジュお兄様は大体不幸になっていたわ。その中でも、ウィリデ国王陛下が亡くなったときは、特にひどかった。このゲームは結末が分かれていて、物語は結末がいくつも準備されているの。それでも貴方たちが知っているのはこの結末なのよね?」


 自分が不幸に。不幸が何を表しているかは分からない。それでも、ウィリデが亡くなったときに感じた絶望は不幸といえるのかもしれない。


「結末、かは分からないけれど、俺たちが知っているのは、ウィリデが死んで、俺が太陽を堕とした」

「ウィリデ国王陛下に手をかけた犯人はご存じ?」


「ロリコン」という言葉を使っていますが、差別的な意図はありません。

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